いよいよ、2019年10月1日に迫った消費税率10%への引き上げ。
軽減税率やキャッシュレス決済のポイント還元を、どう活用して生活への影響を抑えようかと頭を悩ませている人も多いだろう。

実は全国の空港や港で密輸入を取り締まる税関も、今回の消費増税による影響を警戒している。
その影響とは、金の密輸の増加だ。
9月25日、税関を所管する財務省が、2019年上半期の金や不正薬物などの密輸取り締まり状況について発表した。
その中で紹介されている金の密輸事例には、イスラエル人の男らが香港から航空貨物で自動車のサスペンションの中に合わせて420㎏の金を隠して密輸入した例や、日本人の男らが金14㎏をシンガポールから旅客機に乗って持ち込んだ例が挙げられている。

イスラエル人の男らが香港から金420㎏の金を密輸入(提供:財務省)
イスラエル人の男らが香港から金420㎏の金を密輸入(提供:財務省)
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日本人の男らが金14㎏をシンガポールから密輸入(提供:財務省)
日本人の男らが金14㎏をシンガポールから密輸入(提供:財務省)

では、なぜ金の密輸と消費増税が関係してくるのか。
その答えは、金の密輸で利益を得る仕組みにある。
例えば、ある密輸業者が海外で金5㎏を2500万円で購入したとする。それを密輸して金の買い取り店で売るのだが、店が買い取る際には当然、消費税がかかる。つまり、現在の8%だと消費税込みで2700万円で売れることになる。
この差し引き200万円が密輸業者の利益となるという仕組みだ。
10月からは消費税が10%になるため、この場合だと利益が250万円に増えることになる。
こうした消費税を悪用した金の密輸は、過去10年間の摘発状況に特徴的な数字となって表れている。

金地金の密輸入摘発状況 ※平成30 (令和元)年の数値は速報値 財務省HPより
金地金の密輸入摘発状況 ※平成30 (令和元)年の数値は速報値 財務省HPより

2014年(平成26年)の金の密輸摘発件数と押収量を見てみると、ともに前年から急増しているのがわかる。
2014年といえば4月に消費税が5%から8%に引き上げられた年。増税をきっかけに金の密輸で利益を得ようという動きが活発化したことを如実に示している。
その後も増加し続けていたが、2018年4月に転機が訪れる。
金の密輸に対する罰則が強化され、密輸した場合の罰金が、それまでの500万円から1000万円に引き上げられる等の対策が取られたのだ。
その効果もあり、2018年下半期には摘発件数、押収量ともに大幅に減少。
その傾向は、今回発表された2019年上半期の摘発状況にも表れているが、財務省は「今後、密輸入が増加する可能性を懸念している」として警戒感を崩していない。
来月、消費税が10%に上がることで、密輸業者にとっては金を売却することで得られる利益が増える。加えて、最近は金の取引価格が上昇していることから、より“うま味”が増すことになる。
引き続き、水際での厳正な取り締まりが求められる。

(フジテレビ報道局 経済部 日比野朗)

日比野 朗
日比野 朗

フジテレビ報道局経済部デスク。自動車・商社・IT関連などの企業や財務省を担当後、現職。