JPモルガン、制裁金最大の960億円 貴金属取引で不正
【ニューヨーク=宮本岳則】米商品先物取引委員会(CFTC)や米司法省など捜査・規制当局は29日、米金融大手JPモルガン・チェースに対し、貴金属先物取引などで価格を不正に操作したとして制裁金を科すと発表した。支払総額は9億2020万ドル(約966億円)。同社は過去に為替相場の不正操作で制裁を受けていただけに、管理体制の甘さが改めて浮き彫りとなった。
CFTCの声明によると、JPモルガンの元トレーダーらが、金や銀の貴金属先物や米国債先物で取引成立を意図しない注文を出し、すぐにキャンセルする「スプーフィング(見せ玉)」と呼ばれる行為を手掛け、価格を不正に操作していた。JPモルガンが今回支払う罰金9億2020万ドルは、CFTCによるスプーフィング案件の制裁金で過去最高額となる。
JPモルガンの貴金属取引部門幹部やトレーダーは2019年9月までに起訴され、一部はすでに有罪を認めている。不正行為は少なくとも08~16年の約8年間で、数十万件規模におよんだという。司法省は昨年の声明で組織的な価格操作について、従来マフィア訴追に用いられてきた「威力脅迫および腐敗組織に関する連邦法(RICO)」に抵触する行為として、厳しく批判していた。JPモルガンは今回、法人としての管理・監督責任を問われた形だ。
CFTCは処分の理由について、JPモルガンのずさんな管理体制を挙げた。同社はCFTCやシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)から、疑わしい取引について問い合わせを受けていたほか、社内からも不正を疑う声が出ていたという。不正の兆候があったにもかかわらず、内部で十分な調査をせず、スプーフィングを止めることができなかった。
JPモルガンは過去にもトレーダーの不正で刑事責任を問われたことがある。07~13年に複数の欧米銀と共謀し、外国為替相場を不正に誘導したとして、反トラスト法(独占禁止法)違反を指摘され、15年5月に有罪を認めた。5億5千万ドルの罰金も支払った。今回処罰の対象となった貴金属取引部門は16年まで価格操作を働いたとされており、為替部門の不正発覚後も問題行為を続けていたことになる。
米司法省は同日の声明で、JPモルガンと「訴追延期合意(DPA)」を結んだと発表した。一定の条件を満たすと3年間は起訴されない取り決めだ。JPモルガンは当局との交渉で法人としての有罪を認める「有罪答弁」を回避し、トレーディング業務を続けることができる。
ダニエル・ピント共同社長は声明で「今日の合意に関連した個人の行為は受け入れられないもので、彼らはすでに退社した」と述べた上で、内部監督体制の構築や研修に力を入れていると強調した。
米捜査・規制当局はスプーフィング行為の取り締まりを強化している。10年に成立した「ドッド・フランク法(米金融規制改革法)」で、同行為を取り上げ、刑事訴追や民事制裁の対象になると明確化したことがきっかけだ。18年1月に米商品先物取引委員会(CFTCなどが英HSBCやUBS、ドイツ銀行に罰金を科したほか、19年11月に三菱商事の子会社も処分された。
関連企業・業界