アフリカと関係深めるロシア ゴールドラッシュのスーダンとも

日本が主導してアフリカへの支援や投資について話し合うTICAD=アフリカ開発会議の首脳会議が、27日からチュニジアで開幕しました。
ウクライナへの侵攻で欧米との対立が続くロシアは資源開発や武器の取引などを通じて、アフリカの権威主義的な国々との結びつきを深めていて、去年クーデターが起き、軍事政権が続くスーダンもその1つです。
スーダンでは近年、新たな金脈が見つかり、ゴールドラッシュに沸く中、ロシアが民間企業を隠れみのに違法な金の生産を行っていると指摘されています。

現地ブローカー “ロシアの民間企業に金を含む残土を密売”

今回、ロシアの民間企業に金を含む残土を密売している現地のブローカーが匿名を条件にNHKの取材に応じ、密売の全体像を語りました。

ブローカーによりますとスーダン北部のナイル川州では違法な採掘が行われていて、取り出された金鉱石は地元の工場で、水と水銀を加えながら砕くことで、土と金を分けることができるということです。
しかし、この方法では、金鉱石が含む金のうちおよそ3割しか取り出せず、7割の金が残った残土は“カルタ”と呼ばれ、法律上はスーダンの金の製錬企業しか購入することができません。

ブローカーたちは工場からこのカルタを大量に買い占め、ナイル川州に巨大な製錬工場を構えるロシア企業に密売しているのです。

ブローカーは「ロシア企業は最も金払いのいい企業だ。商人としては高い金を払うところに売る。金鉱石を粉砕する工場にとっても私たち仲介人にとっても得になる。ロシア企業はカルタがあればどんどん買っていく。財力はすごくて、すべて現金で買っていく。おかげさまでもうかっている」と話していました。

ブローカーによりますとロシア企業が購入しているカルタの量からして、年間1トン以上の金を生産しているとみられていて、その金額は市場価格でおよそ77億円にのぼります。

さらにブローカーは「ロシアの製錬工場のセキュリティーは非常に厳しい。取引がなければ中に入ることはできない。彼らは自分たちで警備をしていて、入り口には無線を付けた軍人のような人が多くいる」と明らかにしました。

ブローカーは、工場の警備を担当しているのは内戦が続く中東のシリアやアフリカで活動を広げているとされるロシアの民間軍事会社ワグネルだと指摘します。
取材を進めると、ロシア企業の実態は5年前(2017年)にスーダンでの地質調査を名目に進出した「メロエ・ゴールド」という企業でおととし(2020年)、ワグネルとつながりがあるなどとして、アメリカの制裁対象になっていたことがわかりました。

このロシア企業に取材を申し込みましたが、返答は得られませんでした。

スーダン政府の担当者 ロシア企業の関与を否定

一方で、スーダンで金の採掘やカルタの処理を担当する政府の担当者はロシア企業の関与を否定しました。

スーダンの政府機関で金を生産する企業を管理するイーサ・ビンイーサ統括部長は「確かに以前はメロエ・ゴールドという会社はスーダンで事業を行っていたが、いまはスーダンの企業に事業の所有が変わっている。代表もスーダン人だし、書類上もそうなっている」と説明しています。

専門家 “スーダンはロシアの新たな金庫に”

しかし、アメリカのロングアイランド大学に所属し資源開発の現地調査を進めるバクリ・エルメドニ教授はロシアの企業は、スーダンの軍事政権と強いパイプがあり、実際は違法な金の生産を行っていると指摘します。

そのうえでウクライナへの侵攻で経済制裁を受けるロシアが今後も豊富な資源を抱えるアフリカ諸国で影響力を強めていくとみています。

エルメドニ教授は「スーダンや中央アフリカなどでは、すでに新たな地政学的な争いが始まっている。それは従来の争いのようなものではなくもっとスピード感のある資源を直接奪い取る争いだ。とりわけロシアはウクライナへの侵攻後、そうした動きを加速させている。実際、メロエ・ゴールドなどはなんの監視も受けずにスーダンから金をロシアに密輸している。いまスーダンはロシアの新たな金庫になってしまっている」と話していました。

ゴールドラッシュに沸くスーダン

アフリカのスーダンでは、近年、新たな金脈が見つかり、ゴールドラッシュに沸いています。

首都ハルツームにある金のマーケットにはきらびやかな指輪やブレスレットなどを売る店が所狭しと並んでいて、商人たちは常に客を呼び込み、活気にあふれています。

スーダンでは古くから結婚式や祝い事で金のアクセサリーを買う習慣があるほか、金を財産として購入する人も多く、8月中旬にマーケットを取材した際も買い物客でにぎわっていました。

20代の買い物客の女性は「金は生活の一部です。金は自分の財産になります。働き出してまだ半年ですが、もうこれが2個目の指輪です」と話していました。

国内の金の需要が高まっていることも後押しし、金脈がある地域では一獲千金をねらう人たちが集まり、砂漠地帯のいたる所に、作業用のテントが張られ金の採掘が行われています。

このうちの1つでは、深さ70メートル以上の穴が掘られ、男たちが砂にまみれながら、金鉱石を取り出していました。

しかし、こうした採掘の多くは当局の許可を得ていない、いわば違法採掘として行われていて、政府も正確な金の生産量を把握できないでいます。

金の生産や取り引きを管理する政府機関は、スーダンでは年間およそ17トンの金が生産されているとしていますが、専門家はスーダンの金の生産量はこれよりはるかに多い、年間80トン以上にのぼると推定しています。

しかし、国の管理が行き届いていないため、ロシア企業やブローカーなどによってその多くが違法に国外に密輸されているとみられています。