先週の動き、ドル指数反落でNY金が浮上

週末、月末、四半期末が重なった9 月30日のニューヨーク金先物価格(NY金)は、反発となった。NYコメックスの通常取引(清算値)は前日比3.40ドル高の1,672.00ドルで終了した。週間ベースでは16.40ドル(0.99%)の3週間ぶりの上昇となった。月間では3.1%の下げで6ヶ月連続での下落となった。

先週のNY金は不安定化した金融市場の中で、安全資産としての米ドル買い需要の強弱を映すドル指数(DXY)の動きに沿った、ファンドの売買動向に上下する流れが続いた。週初からDXY上昇の中で1,600ドル方向を試す動きが見られたものの、押し目買いに1,630ドル台を維持した。

注目されたのは、9月28日の値動きだった。週初から続いていた英国ポンドの急落など金融市場の混乱に乗じて、この日一時114.788まで急伸したまた、DXYの裏でNY金が売られ、一時1,622.20ドルと2020年4月以来の安値を記録した。

ところが、同じ日に英中銀イングランド銀行(BOE)が、混乱回避に向け英国債の緊急買い付けを発表したことで、流れに変化が生まれることになった。BOEの緊急出動はサプライズともなり、英ポンドが対米ドルで急反発した。それにより、ユーロも持ち直し、DXYは週末にかけて水準を切り下げ、9月30日は3営業日続落の112.177で終了した。

また、週間ベースでは3週間ぶりの下げとなったが、.月間では3.15%高と4月以来の上げの大きさであった。四半期ベースでは7.2%の上昇で2015年1~3月期以降で最大の上げとなった。

上記のように、9月28日は一時2年5ヶ月ぶりの安値(1,622.20ドル)まで売られたNY金だったが、同日中のDXYの急落(高値114.778→終値112.604)を反映し、前日比33.80ドル高の急反発で取引を終了した(終値1,670.00ドル)。

この日の高値は1,671.60ドルでほぼ高値引けという展開となった。心理的な節目の1,650ドルを超えることになったが、DXYの反落に沿ったファンドのショートカバー(売り建ての買戻し)のみならず、英国金融市場で急浮上した金融不安の兆候もNY金の押し上げ要因になったと見られた。

NY金のレンジは、1,622.20~1,684.40ドルとなったが、先週の想定レンジ(1,620~1,670ドル)の上限を超えたものの9月30日の終値は1,672.00ドルとなった。一方、国内金価格は7,495~7,752円と、この間に米ドル/円相場に目立った動きが見られない中でNY金の動きに沿ったものとなった。ほぼ、先週の想定レンジ(7,450~7,700円)に沿った形となった。

イングランド銀行の緊急介入

ロンドン現地時間9月28日の午前、そしてNY時間の早朝に前述のようにBOEが英国債の緊急買い入れを発表。期間20年以上の超長期国債を無制限に購入すると表明した。

発表前に4.5%を上回っていた英10年債利回りは4%近くに低下し、NY市場にも国債買いが波及し、米10年債利回りは前日の3.948%からこの日の終値で3.736%に大きく低下した。

NY時間外のロンドンの早朝の時間帯には12年ぶりの高水準となる4.010%まで上昇していたので、まれに見る急落ということになる(債券価格が急騰)。それだけ、BOEの介入はサプライズとなった。ちなみに9月1日の英10年債利回りは2.882%だった。

BOEは、もともと10月3日からインフレ対応の引き締め策の一環として保有国債の売却(QT量的縮小)を始める計画となっていたが、前週9月23日に英トラス新政権が発表した大型減税とその財源としての国債の増発に、財政悪化を懸念した市場では英ポンド売りと同時に英国債売りも活発化していた。不測の市場の混乱にBOEは急遽方針を覆さざるを得なくなった。

今回の方針は、市場の秩序と安定を図る「金融行政委員会(FPC)」の勧告に基づいた政策判断であって、インフレ抑制対応のQTは実施するものの、月末10月31日スタートに延期が発表された。

BOEは今回の緊急買い付けを10月14日までとしており、安定化策の効果持続を疑問視する見方も多い。政治的には、混乱を招いたトラス新政権に対する非難の声は保守党内でも高まっているとされ、今後政局に発展する可能性も指摘されている。

潜在していた金融リスクが急浮上

BOEが緊急買い入れに動いた背景には、年金基金の破綻を防ぐ目的があったとされる。それゆえ20年超という超長期債に絞った買いになった。

超長期債を担保に資金を借り入れ、デリバティブ(金融派生商品)取引などを仕掛けていた年金基金の中に、担保(英国債)価値の急落で、追加担保を要求されるところが出ていたとされる。

いわゆるマージンコール(証拠金の追加拠出要請)、追証に応じられない場合は、資産の現金化を急ぐことになり、国債相場の投げ売りで下げが下げを呼ぶ懸念が高まったとされる。当初、当局は急落は1、2日で落ち着くと思っていたらしいが、長引いたことで慌てたようだ。

保有資産を担保にして新たな資金を借り入れ、それをさらに投資に回す手法を「レバレッジを効かせる」(Liability Driven Investment、LDI)と表現するが、想定が外れた際のリスクが高く、以前では低リスク運用で知られる年金基金はそうした手法は取っていなかった。

ところが低金利環境が長期化し、想定する利回りが得なれない中で、以前では考えられなかったリスクを取る運用に乗り出すところが増え、一種のトレンドになっていた。

米公的年金基金でも環境悪化から2022年の上半期に損失を拡大したところが増えた。「堅い運用」と思われる国債投資だが、新型コロナ禍以降に市場の値動きが想定以上に大きくなったことで、水面下に潜んでいたリスクが急浮上することになった。

前述したように9月28日にNY金が前日比33.80ドル高でほぼ高値引け(終値1,670.00ドル)の背景には、潜在する金融リスクに対する警戒もあったと思われる。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週の展望、NY金は1,650~1,690ドル、国内金価格は7,550~7,850円を想定

今週は米国では、9月の雇用統計や全米の製造業やサービス業の活動動向を示すISM製造業・非製造業景況指数など重要指標の発表が予定されている。さらに複数の米連邦準備制度理事会(FRB)高官の講演など発言機会もあり注目点となる。

9月雇用統計では失業率が引き続き、3%台の低水準を維持する見込みとなっている。また8月の雇用動態調査(JOLTS)において、引き続き1,000万件超の求人件数がされるなど、労働市場のひっ迫が証明されると11月の連邦公開市場委員会(FOMC)で4会合連続での0.75%の利上げや12月0.5%の利上げ確率を押し上げることになりそうだ。

その一方、前週の動きからNY金には底打ち機運が高まっているのも事実で、結果に関わらず1,600ドル台後半を固める動きにつながるか否かが注目点になりそうだ。NY金のレンジは1,650~1,690ドル、国内金価格は7,550~7,850円を想定している。