先週の動き、週末に一時1,620ドル台も急浮上

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週初めは反発となったものの上値は重く、週後半には1,650ドルの心理的節目割れに売り込まれることになった。

前週まで、先物市場でのファンドの売り手掛かりとなっていたドル指数(DXY)の上昇に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)による積極的な利上げが続くとの観測から債券売りが先行。米長期金利の指標となる10年債利回りの上昇が加速したことが、新たにNY金売りの手掛かりとなり、下値を切り下げることになった。

週末10月21日のNY金の通常取引は、前日比19.50ドル高の1,656.30ドルで終了。週間ベースでは7.40ドル、0.45%の上昇となった。

先週は11月1~2日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、週末10月22日からFRB関係者の発言自粛期間(ブラックアウト)入りを控え、前週に続き、連日にわたってFRB関係者の発言が伝わった。その多くが、利上げに積極的なものであったことから米長期金利の上昇を加速させ、週末には一時4.325%と2007年11月以来の高水準まで押し上げた。

10月18日には、以前はブレイナード現FRB副議長とともに声高なハト派として知られた、ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁が、「最も厄介なコアサービス価格の上昇加速が継続しており、我々は上振れに驚き続けている」と発言。「4.5%や4.75%程度での利上げ停止を主張する理由は見当たらない」と述べ注目された。

このところ、今回のFRBの利上げサイクルにおけるターミナルレート(政策金利の最終到達点)の切り上げ見通しが広がり、上限が見えなくなっていることが、DXYに続き米長期金利の加速につながったとみられる。

その状況も週末10月21日に、やや流れが変わることになった。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、この日、同紙のFedウォッチャー(FRB担当記者)の署名記事で、FRBが一連の大幅利上げについて見直し、ペースを落とす可能性があるとの観測記事を流したことが、市場の流れに変化をもたらした。

先週末10月21日のNY金はNY時間外のロンドンの早朝の時間帯には、一時1,621.10ドルと、9月28日に付けていた2020年4月以来の取引時間中の安値(1,622.20ドル)を下回るところまで売られていた。

そこからNYの通常取引開始時点まで、1,620ドル台の狭い範囲での取引が続いた。そのまま1,600ドル割れを試すかに見られたが、1,620ドルのラインは意外に堅かったという結果にになった。

その後、通常取引の時間帯に入り、買い優勢に転じると短時間でプラス圏に浮上。そのまま中盤、終盤と水準を切り上げながら相場は進行した。冒頭で触れたように通常取引は1,656.30ドルで終了したが、その後の時間外でも買いが先行し、ほぼ高値引けの1,662.50ドルで週末の取引を終了した。

この時点で前日比25.70ドル高に。買いの主体は先物市場でのファンドの売り建ての買戻し、いわゆるショートカバーとみられる。結局、先週のレンジは1,621.10~1,674.3ドルとなったが、先週のコラムでの想定レンジは1,635~1,690ドルだった。1,650ドル割れは売られ過ぎとの見方を継続している。形としては1,620ドル台から切り上げたことで2番底を確認したとみている。

なお、10月21日はサンフランシスコ連銀のデイリー総裁が、南カリフォルニア大学バークレー校でのイベントで、「利上げペースを緩めることを協議し始める時期に来ている」と発言したと伝わったこともNY金の買いの手掛かり材料となった。

政府・日銀の介入を受け国内金価格は一時急落

一方、円建て国内金価格は、週末10月21日に政府・日銀の介入とみられる米ドル/円相場の動きに、大きく影響を受けることになった。

週足となる10月21日日本時間の日中取引終了ベースのレンジは、7,794~7,937円となり先週のコラムで7,750~7,900円とした想定レンジにほぼ沿ったものとなった。ただし、10月21日の夜間取引の時間帯では、為替介入とみられる米ドル/円の急落により、一旦はNY金の上昇を映し7,956円(23時01分)まで押し上げられた価格は、その約2時間後の10月22日0時54分には7,760円まで急落状態となった。

その後、やや米ドル/円相場が米ドル高方向に戻ったことと、前述のようにNY金の上昇が続いたことから、値を戻し夜間取引は7,860円で終了となった。為替相場の急変には、今後も注意を要する。グラム当たり200円の急落は国内金価格に対する米ドル/円相場の影響の大きさを表す。為替介入によるリスクとリターンは表裏と言え、今後も十分注意したい。

再び流れを変えた米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの報道

6月のFOMC開催直前に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のフェドウォッチャー(Fed Watcher、FRB担当記者)で知られるニック・ティミラオス記者の記事(利上げ幅0.5%から0.75%に変更観測)が市場を動かしたが、10月21日にも同記者の記事が市場の手掛かり材料となった。

記事の内容は、次回11月1~2日開催のFOMCで、0.75%の利上げを決める見通しとした上で、その際に12月会合で利上げペースを減速させるか否かを話し合うとした。仮に減速させるとなった場合には市場にどう伝えていくかが、政策論議の焦点になるとみられるとしている。「次回会合では引き締めペースについて徹底した討議を行うことになる」とした、ウォラーFRB理事の今月の講演での発言を取り上げた。

同記事によると、FRB内では2022年、これまでに実施した利上げがどれほど景気を冷やしているか見極めるため、早期に利上げペースを緩め、かつ2023年初めに停止することを求める声も出始めているとしている。

確かにこのあたりは、10月12日に公開された9月FOMC議事要旨に、数名がその旨の発言をしたとあったので、整合性がある内容と言える。一方で、インフレ高進が想定以上に長引いていることを踏まえると、こうした議論は時期尚早との意見もあり、見解は分かれている。

この点に関して、私が注目していたものに10月14日のイベントでカンザスシティー地区連銀のジョージ総裁の発言がある。

S&Pグローバル・レーティングスが主催したイベントでのもので、市場にボラティリティーが見られているときは(値動きが大きいときは)、政策の不確実性を最小限に抑える必要があるとして、高水準の利上げは必要であるものの、「あまりに急速に動けば金融市場が混乱する恐れがある」とした。

このところの金融市場のボラティリティーの他、中央銀行の政策措置が経済に浸透するのに時間がかかることを踏まえ、FRBは利上げを慎重に実施していく必要があるとの考えを示した。

おそらく9月下旬に急浮上した英国国債の急落に端を発した、英国年金基金の巨額含み損の急浮上が念頭にあるとみられ、インフレ抑制とはいえ、FRBによる急ピッチの利上げには慎重に検討すべしという意向とみられる。ちなみに同総裁はタカ派で知られる人物である。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券

今週の展望、NY金は1,640~1,690ドル、国内金価格は7,750~8,000円を想定

10月21日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事を受け、米金利先物市場の値動きを基に利上げ確率を算出するシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の「フェドウオッチ」では、2月に0.75%の利上げを決める確率が、前日10月20日の75%から10月21日は一時50%を下回った。こうした利上げ加速観測の後退を映し、米長期金利がどのように動くかが注目される。

今週は翌週にFOMCを控えることから、模様眺めの中で米10年債利回りは4%台をやや上回る水準で滞留、DXYも112ポイントを挟んだ狭いレンジでの推移となりそうだ。値動きが大きくなるとすれば、10月28日に発表される9月の米個人消費支出(PCE)価格指数の結果の上振れと思われる。

特にエネルギーと食品を除いたコア指数(PCEコアデフレーター)に注目が集まる。市場予想は+5.2%と、8月から再び伸びが拡大する見込みとなっている。やや沈静化したかに見える大幅利上げ観測が復活可能性もありそうだ。

NY金の想定レンジは1,640~1,690ドル、国内金価格については介入効果がどの程度持続するかに左右され、読みにくくなった。米ドル/円相場が150円手前の水準での滞留と読み、国内金価格は7,750~8,000円の狭いレンジ、つまり7,900円を挟んだ相場展開を想定する。