先週の動き:ニューヨーク金先物価格は、ホリデーシーズン入り前で動意薄も底堅く推移

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、ホリデーシーズン入り前で週後半は取引の薄い中で底堅く推移した。11月24日は感謝祭の祭日、翌11月25日金曜日は金市場を含め、株式・債券など幅広く短縮取引となる関係で市場参加者は少なかった。

その中で、週末11月25日のNY金は3営業日続伸となった。前営業日比8.40ドル高の1,754.00ドルで終了した。10月分の米雇用統計や米消費者物価指数(CPI)の結果から、一時高まったものの、その後沈静化していた米連邦制度準備理事会(FRB)の利上げペースの減速観測が、ここにきて再び高まったことが金の上昇につながっている。

11月23日に公表された11月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、参加者の大多数が早期の利上げ幅縮小を支持していることが判明したことを受け、為替市場で米ドルが主要通貨全般に対して売られたことが、この日もNY金の買い手掛かりとなった。

1,754.00ドルの終値は、週間ベースで0.40ドル、0.02%安とほぼ横ばいになった。レンジは1,733.90~1,761.20ドルと先週初めに想定した1,730~1,780ドルに上値は届かなかった。

一方、国内金価格は週前半に7,900円台中盤まで高値を付けたものの、11月23日のFOMC議事要旨を受けた、米ドル安に伴う円高の影響から水準を切り下げた。NY金の動きより、為替市場の円高の影響を強く受けた週になった。

国内金価格の11月25日日中取引の終値(清算値)は7,816円と週間ベースでは99円、1.25%の下落となった。価格レンジは7,792~7,940円で11月23日の勤労感謝の祭日を挟み、前半は7,900円を挟んだ値動き、後半は7,800円を挟んだ取引となった。先週のコラムでは想定レンジを7,750~7,950円としており、ほぼその範囲での動きとなった。

FOMCメンバーのかなり多数が利上げペースを落とすことが近く適切と示唆、米経済がリセッションに陥る可能性も予測

11月23日に発表された11月開催分のFOMC議事要旨は会合終了翌日から、ここまで多数のFRB関係者の発言が伝えられてきたこともあり、多くは織り込み済みの内容で総じてサプライズはなかった。それでも細部に注目点があった。

FOMC議事要旨では、「かなり多数」のFOMCメンバーが利上げのペースを落とすことが近く適切になると判断し、12月会合での利上げ幅を0.5%に減速する方向に傾いていることが示唆された。同時に、「さまざまな」メンバーが「目標達成に必要な政策金利の最終的な水準は、従来の見通しを幾分か上回る」としていた。

その一方、FOMC参加者の多くは足元の高インフレについて「収束する兆しがほとんどない」としていた。それでも利上げの減速が必要になる理由については、(ここまで異例に強い)金融引き締めの効果が、どれほどの時間差をもって実体経済に影響を及ぼすかが不確実なことを上げ、状況を見たいとの意向とみられる。

また、FOMC議事要旨ではFRBのスタッフエコノミストがメンバーに対し、個人消費支出の鈍化や世界経済を巡るリスク、追加利上げ見通しなどを背景に米経済が今後1年間にリセッション(景気後退)に陥る可能性が50%程度に高まったとの予測を示していたことが判明した。内部スタッフが示した、景気見通しに対する懸念は3月の米利上げ開始以降、初めてのことである。

ただし、今回の結果については総じてここまでの関係者の発言により織り込み済みということもあって、ハト派的なものと受け止められることになった。それにより為替市場では主要通貨に対し、米ドル安が進み、ドル指数(DXY)の11月25日の終値は105.959と8月12日以来3ヶ月半ぶりの水準まで低下した。DXYの下落はNY金には押し上げ要因となった。

サンフランシスコ地区連銀デイリー総裁の発言から考察、利上げ方針に変化の兆し

FOMC議事要旨を受け、12月のFOMCでの利上げ幅は0.5%に縮小が織り込まれる一方で、2023年以降も3月を含む、2会合ともに利上げを続ける見通しも市場では浸透しつつある。

2022年3月に始まった今回の利上げサイクルだが、最終到達点の金利水準(ターミナルレート)については、今後のインフレ次第とはいえ、最大5%をやや上回る水準との見方が固まりつつあるとみられる。

この点では先週11月21日の講演で「少なくとも5%」の水準とした、サンフランシスコ地区連銀デイリー総裁の発言が参考になる。同総裁は元々ハト派として知られるが、このところの発言内容はタカ派に傾いており、11月17日には経済チャンネルCNBCによるインタビューにて4.75~5.25%との見通しを示した経緯がある。パウエルFRB議長はじめFRB執行部と意見調整を進めた上での発言と私自身は捉えている。

11月21日の同総裁の講演内容で目に留まったのは、インフレ抑制の引き締めについて「留意する必要がある」点として挙げた部分だった。「調整が足りなければインフレは高過ぎる状態が続くが、調整が行き過ぎれば、不必要な痛みを伴う景気低迷を招きかねない」とした。つまり、やり過ぎ状態(オーバーキル)に注意するタイミングに入っていることを意識しつつ、ここから落しどころを探るというものである。

パウエルFRB議長をはじめFRB指導部のスタンスとしては、これまで行き過ぎた利上げのリスクを認めつつも、利上げ不足によるインフレ高進リスクよりはリスクレベルは小さいとしてきた。こうした方針に変化が出つつあるようだ。

利上げサイクルからすると、利上げは終盤に差し掛かっていると解釈して問題はないと言える。ただし、株式市場などではその先の利下げまで前のめりに織り込みに掛かろうとするため、FRB高官からは“牽制球”ともいえる利上げ継続発言が先週も繰り返された。

今週の展望:12月初旬の米統計発表やパウエルFRB議長の発言に注目、NY金は1,730~1,790ドル、国内金価格は7,650~7.900円を想定

今週は、このところ月初の重要イベントとなっている米雇用統計(11月分)の発表(12月2日)に加え、FRBが物価指標として注目する10月個人消費支出価格指数(12月1日)など重要統計の発表が相次ぐ。

米雇用統計については、10月分の発表をきっかけに為替市場が米ドル安に傾いた経緯があり、インフレとの関連で賃金(平均時給)の動向が注目される。前回前年同月比4.7%と5%割れが注目されたが、11月分も4.6%へと減速が予想されている。

FRB関係者の発言としては、11月30日に予定されているパウエルFRB議長のブルッキング研究所でのイベントでの発言が注目されている。パウエルFRB議長はこの討論会で経済見通しや労働市場に関し議論する予定となっている。次週は12月13~14日のFOMCを前にFRB関係者が発言を控えるブラックアウト期間入りを控えることから、今週の最大注目点となりそうだ。

ここまでの大幅な利上げにもかかわらず、景気に対し楽観的な見通しを示せば、米ドル高を通し、NY金売りの手掛かりとなる。NY金については12月FOMC明け後の上昇を予測しているが、その前段階のイベントとなる。

今週は手掛かり材料が多く、レンジ拡大が予想されるがNY金は1,730~1,790ドル、国内金価格は米ドル安/円高の拡大も考慮し7,650~7,900円を想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券