中国が金保有積み増し 米ドル覇権に挑戦

人民元の国際化に向けた中国の戦略的な金の公的保有拡大は金相場を押し上げる要因となっている(新華社=共同)
人民元の国際化に向けた中国の戦略的な金の公的保有拡大は金相場を押し上げる要因となっている(新華社=共同)

中国が「無国籍通貨」といわれる金の公的保有を積み増している。昨年12月までに2カ月連続で増やし、年末時点の保有量は2000トンを超えた。前回積み増しが明らかになったのは、米中貿易摩擦が先鋭化した2019年9月だった。米中関係は現在、台湾を巡り一段と緊張感が高まっている。人民元の国際化を目指す中国にとって、金の保有を増やすことは、ドル覇権への挑戦といえる。

中国の昨年末時点の外貨準備高は3兆1280億ドル(約400兆円)。過半を米国債が占める。金の保有残高は1172億4000万ドルに過ぎないが、着実に増やしている。

狙いについて、エコノミストの豊島逸夫氏は「中国はドル一極集中の通貨覇権に人民元と金で対抗しようとしている」と解説する。

金は特定の国や組織が発行しているわけではなくデフォルト(債務不履行)懸念がない。世界最大の基軸通貨であるドルと逆の相関関係にあり、米国金利が上昇すると金価格は下がり、米国金利が下がると金価格は上がる傾向がある。

米中の対立が先鋭化し、中国が米国債を一気に売却すれば、米国金利は急騰し、米国経済に打撃を与えることができる。中国は米国債に代わる外貨準備として金を集めている可能性がある。

中国には統計に出てこない金もあるとされる。豊島氏は水面下の調達先の一つとして、ウクライナ侵攻で孤立を深めるロシアを疑う。日米などから経済制裁を受けるロシアから人民元で金を買っている可能性があるという。

習近平政権にとって、人民元の国際化は悲願だ。2016年には国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)にドルや円と並び、人民元を加わえることに成功し、ロシアなどに外貨準備への人民元組み入れを働きかけてきた。習氏は昨年11月には、ペルシャ湾岸6カ国による湾岸協力会議(GCC)と初の首脳会議に臨み、石油やガスの輸入を増やす意向を示し、「人民元による決済を推し進める」と表明した。

人民元の国際化に向けた中国の戦略的な金の公的保有拡大は金相場を押し上げる要因となっている。

米ニューヨーク市場で取引される金先物価格は今月2日時点で1オンス=1930・8ドル。米国の大幅利上げで景気後退懸念が強まった昨年10月を底に上昇に転じ、昨年3月以来の2000ドル台が近づく。豊島氏は「5年後には中国の金の公的保有は5000トン、金価格は3000ドルに達するだろう」と予想する。(米沢文)

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