先週の動き:ニューヨーク金先物価格(NY金)は2,000ドルを挟んだレンジ取引継続、国内金価格は日銀金融政策変更なしを受けた円安で週末に最高値圏に上昇

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、2,000ドルを挟んだレンジ取引となった。週初4月24日夕刻に決算発表をした、米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)で大規模な預金流出が判明し、地銀が融資に慎重になり、景気に悪影響が及ぶのではないかとの懸念が再燃、リスクオフ(リスク資産回避)ムードが広がった。

市場内には特定の銀行の個別問題との見方がある一方で、今後の銀行を巡る規制強化の方針がこの先の金融環境を締めることと、破綻が懸念される当のファースト・リパブリック・バンク問題の処理を巡る不透明感が、市場を覆うことになった。

その中で金市場は、翌週に米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、0.25%の利上げは織り込んでいるものの、利上げサイクルの終了を巡る見通しが不透明であることから方向感は出ず、日々発表される米国指標に個別に反応する流れが続いた。金融を巡る先行き懸念はNY金には一定のサポート要因となっている。

マクロ要因(経済環境)という点では、インフレ関連の指標に引き続き関心が向けられた。先週要注目とした4月28日発表の3月の米個人消費支出(PCE)価格指数は、エネルギー・食品を除くコア指数(コアPCEデフレーター)が前年同月比で4.6%上昇と市場予想(4.5%上昇)を小幅に上回った。米連邦準備制度理事会(FRB)が目標にしている2%の未だ倍以上の水準に高止まりしており、5月の利上げを正当化する内容となった。

4月27日発表の米1~3月期の実質国内総生産(GDP)速報値は年率換算で前期比1.1%増と、伸びは2022年10~12月期の2.6%から減速し、市場予想(1.9%)も下回った。企業の在庫投資の振れの大きさが、今回はマイナスに作用した。個人消費は3.7%増と好調だった。

それ以上に注目されたのは、この期のGDP価格指数(速報値)の伸びだった。前期比4.0%伸びと前期(3.9%伸び)から鈍化予想に反し加速しました。食品とエネルギーを除いたコア指数は前期比4.9%と前期の4.4%から大きく加速し、1年ぶり最大の伸びとなった。いずれのインフレ関連指標も根強さを感じさせ、沈静化に時間を要することを示唆している。

週末4月28日のNY金通常取引終値(清算値)は1,999.10ドルとなった。週間ベースでは12.90ドル、0.65%の上昇の反発となった。

一方、国内金価格は週末に上昇基調を強めることになった。4月27~28日の日程で金融政策決定会合を開いた日銀が、現状維持を全員一致で決めたことを受け、円が全面安となり国内金価格を押し上げた。

米ドル/円相場は一時136.55円と対米ドルで7週間ぶり安値を付けた。この円安を受け、国内金価格(大阪取引所の金先物価格)は4月28日の夜間取引で一時8,703円と過去最高値を更新した。先週のコラムでは国内金価格の想定レンジを高値更新含む8,480~8,700円としたが、先週末日中取引終了時点では、8,503~8,622円となった。

歳入減見通しでにわかに警戒感高まる米連邦政府の債務上限問題

市場では米連邦政府の債務上限問題への警戒が高まっている。

すでに2023年の1月に31兆4000億ドルの上限に達しており、現在は財務省が公務員退職・障害基金などへの投資を一時停止するなど、やり繰りして資金繰りを続けている状況にある。2月には米議会予算局(CBO)が早ければ7月には限界が到来し、国債利払いの不能(デフォルト)などの可能性があると警告を発していた。

そんなところに先週4月19日、米議会下院共和党トップのケビン・マッカーシー議長(ら下院共和党議員5人)が債務上限を最大1兆5000億ドル引き上げる、あるいは2024年3月31日まで債務上限を凍結する見返りに、米連邦政府の支出を4兆5000億ドル削減する独自の法案を発表。先週4月26日米下院にて賛成217、反対215の僅差で可決された。

法案の内容は当面の新規国債発行を可能にする一方で、バイデン米政権の目玉政策といえるクリーンエネルギー生産設備などに対する税額控除支援策の廃止や、学生ローン支払い免除・停止措置などの中止が盛り込まれている。

元々、民主党が多数派となっている上院で同法案が可決される可能性は低い上に、バイデン米大統領は支出に関する交渉は行わないとしてきたことから、最終的に成立の可能性はない法案と言える。

そもそも内容的にバイデン米政権には受け入れられないものでもある。ただし、共和党サイドとしては、妥協案を提出し下院にて可決したにも関わらず、民主党政権はそれを反故にしたという(有権者に訴える)事実作りの側面が強いと言える。

ここに来てにわかに警戒感が高まっているのは、ゴールドマンサックス・グローバルインベストメントリサーチが4月の歳入が想定より少なかったとして、債務不履行に陥る時期が6月に早まる可能性があるとの見通しを示したことによる。

国債のデフォルトに備える保険でもあるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のいわば保険料率(5年物スプレッド)が(同様に引き上げが紛糾した)2011年の水準にまで急上昇していることが背景にある。タイムリミットが確実に近づく中で、市場は本格的にデフォルトへの警戒を強めている状況だ。

この問題は2022年から予想されていたもので、NY金価格を刺激する材料として取り上げてきた。2011年は当時のオバマ民主党政権下で交渉が難航し、デフォルト寸前で話し合いがまとまった。

しかし、当時の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが「決められない政治」を理由に米国債の1ランク格下げを発表し、その後の市場の混乱につながった経緯がある。当時NY金は発表から11営業日で約240ドル急騰し、当時の過去最高値1,900ドル台に駆け上がることになった。

この問題は必ず決着がつき、デフォルトには至らないというのが一般的な捉え方で、過去すべてそうなっている。しかし、2011年は合意しても混乱に繋がった。当時より現在の方が政治分断の度合いが大きく、下院共和党自体が一枚岩ではなく、フリーダム・コーカスと呼ばれる保守強硬派議員団の動きが懸念される状況にある。

市場の警戒は6月に向け、さらに高まるものと思われる。今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、終了後の記者会見において、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長がこの問題に言及するものと思われる。

今週の見通し:利上げ継続の有無が焦点のFOMC。NY金は1,985~2,040ドル、国内金価格は8,550~8,800円を想定

今週は5月2日から3日にかけてFOMCが開催される。FRBはこの会合で、0.25%の追加利上げを実施するとみられ、政策金利は5.00~5.25%となる。市場の関心は、FRBが今回の利上げにて利上げサイクルの終了を示唆するのか否かに向けられている。

折しも足元で銀行不安が再燃しており、規制強化などから今後融資姿勢が厳しくなること自体が引き締め効果を強めるとの見方もあり注目される。今回取り上げた米連邦政府の債務上限問題は米議会の案件ではあるものの、FRBにとっても無関心ではいられない問題となっており、パウエルFRB議長の発言にも注目したい。

また、今週は4月雇用統計や4月ISM製造業景況指数といった重要な経済指標の発表も予定されている。5月2日発表の米雇用動態調査(JOLTS)の求人件数も労働市場の状況を見る上で重要指標となる。日本は連休となるが、米国関連の指標の結果によっては値動きが大きくなりそうだ。

その中でNY金は1,985~2,040ドル、国内金価格は8,550~8,800円を想定している。国内金価格については、営業日数が限られるが最高値更新を見込んでいる。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券