中東緊迫、有事の金急騰にはご用心
2003年にイラク戦争が勃発したとき、金価格は、上昇後に「吹き値売り(急騰を待ち構えていた売り)」に見舞われ、結局下落した。プロの手口は「噂で買って、ニュースで売る」。特に「火薬庫」と言われる中東発の地政学的リスクは陳腐化も早い。
今回の中東情勢急変では、イスラム組織ハマスによる突然の市街戦勃発という劇的な展開で、金価格も週明け月曜朝のアジアの取引時間帯に、いきなり20ドル超の急騰を演じ、その後もニューヨーク時間で続騰。スポット(随時契約)で1トロイオンス1860ドル超をつけている。地合いとしては、先週までは下げ続け、1800ドルという下値抵抗線の攻防戦を繰り広げていたが、6日の米雇用統計発表後に、空売りの買い戻しにより、反騰モードにはあった。
結局、1800ドルで底入れした形になっている。
ただし、有事の金買いで上昇した部分は、最悪のシナリオに発展しない限り、早晩、剝落する可能性が強い。背後の火付け役とされるイランとイスラエルが全面戦争となり、サウジアラビアも巻き込む事態に発展すれば「最悪」となるが、現段階では、そこまで読み切れない。
結局、金市場へ持続的に影響を与えるのは、やはり、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策と、米議会混乱であらわになった米財政不安だ。来年の利下げへのピボット(転換)や、米国債格下げによる米ドルへの信認低下。その結果、世界の中央銀行が外貨準備のドルを減らし、公的金保有量を増加させている傾向は一過性とは言い難い。
連日、報道されるガザ地区の衝撃的映像は悲劇的であり、イスラエル・パレスチナ間の問題に大きな禍根を残すことは間違いなかろう。ただ、マーケットには、実質金利のような金融要因がジワリ、ボディーブローのごとく効いてくるのだ。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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