世界の金需要6%減 7〜9月 中銀の買いが前年下回る
国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が10月31日発表した7〜9月の金の総需要は1147.5トンと、前年同期比6%減った。ウクライナ危機で中央銀行の買いが過去最大だった前年の反動が表れた。金価格の上昇も個人の購入意欲を抑えた。
落ち込みが目立ったのが中銀の買いだ。中銀は発行体が存在しない「無国籍通貨」とされる金を外貨準備高の一部として保有する。各国中銀や国際通貨基金(IMF)などの純購入量(購入量から売却量を差し引いた値)は前年同期比27%減の337.1トンだった。
22年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧米諸国は経済制裁の一環としてロシア中銀が保有する米ドルを凍結した。ドル保有のリスクを認識したトルコ、ウズベキスタンなど新興国の中銀が、外貨準備高の構成見直しで金買いを加速した。22年7〜9月の中銀による純購入量は過去最大の458.8トンだった。
金価格の高騰で個人の消費も振るわなかった。宝飾品の需要は578.2トンと前年同期比1%少ない。主要需要国の中国は6%減った。人民元安で現地建ての金価格が高騰した。米国では新型コロナウイルス感染が落ち着き、行動制限下で伸びていた宝飾品への支出が減った。
投資目的で保有する地金やコインは14%減の296.2トン、テクノロジー向けも世界経済減速で3%減の75.3トンだった。
現物の金が裏付けとなる上場投資信託(ETF)は139.3トンの流出超過だった。243.7トンの流出超だった前年同期よりも流出は和らいだ。利息が付かない金は金利上昇局面で資金が流出しやすい。22年は米国の利上げが続いたが、23年に入って利上げが最終局面に入りつつあるとの見方が強まっている。
供給は前年同期比6%増の1267.1トンと、3年ぶりの高水準だった。米国、ガーナなどの鉱山が増産し、鉱山生産量は2%増の971.1トンだった。金価格上昇でリサイクル金は288.8トンと8%増えた。
10月以降、金価格は上昇傾向が目立つ。国際指標となるニューヨーク先物(中心限月)は10月27日、一時1トロイオンス2019.7ドルまで上昇し、約5カ月ぶりの高値を付けた。中東情勢が緊迫し、価値が消えない金への資金流入が加速している。
楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストは「中東情勢への警戒感が投資家の不安心理を高め、今後、個人や中銀の買いが増える可能性がある」とみる。(松本桃香)
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