先週の動き:タカ派に傾くFRB関係者の発言で下げ幅拡大、200日移動平均線を意識

先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は予想以上に水準を切り下げて終了となった。主要な米経済指標の発表がない中で、週初から週末まで連日にわたり米連邦準備制度理事会(FRB)関係者の発言が予定されており注目された。

内容としては、ここまでのインフレの鈍化傾向は認めながらも、目標としている2%にはなお遠く、むしろ再加速を警戒するという見方を示すものが多かった。従って、利上げの可能性は消えていないという内容の発言が続いた。

事前に注目度が高かったのは、11月9日の国際通貨基金(IMF)主催のパネル討論に登壇したパウエルFRB議長の発言だった。結果的に後述するように発言内容はタカ派的と受け取られ、米長期金利先高観の強まりを背景とした売りが金市場では広がった。

また、パレスチナ自治区ガザへのイスラエル軍の攻撃は激しさを増しているものの、近隣諸国を巻き込む可能性は現時点では低いとの見立てから、ゴールドに乗った一定のヘッジプレミアムが縮小していることもファンドの売りを引き出し、下げを拡大させた。

前週末11月10日のNY金の終値(清算値)は前日比32.10ドルと下げ幅が大きくなり、1,937.70ドルとほぼ安値引けとなった。その結果、NY金は週間ベースで5週ぶりの下げとなり、下げ幅も61.50ドル、3.08%と大きくなった。

レンジは1,936.50~2,000.10ドルと、先週のコラムで想定したレンジ1,978.00~2,018.00の特に下値目途を40ドルほど下回ることになった。一時4.5%割れを見た米10年債利回りが、再び反転(価格は下落)の動きを見せたことが、ファンドのアルゴリズムに沿った売りを膨らませることになった。

心理的な節目の1,950ドルを割れたことでテクニカル要因も悪化し、足元では1,932ドル近辺に位置する200日移動平均線を意識した売りが下げ幅を拡大させた。当面は200日移動平均線が、下値支持線として意識されることになりそうだ。

一方で、国内金価格は水準を切り下げたNY金の影響をフルに受けることはなかった。11月10日の米ドル/円相場が151.59円と11月1日以来の高値を更新。日銀介入に対する警戒感の中で、前週に付けた1年ぶりの高値(151.74円)付近にとどまる円安が国内金価格のサポート要因となった。

国内金価格は週間ベースで反落となり、下げ幅は76円、0.79%となった。レンジは9,435~9,617円となったが、これは先週のコラムでの想定レンジ9,470~9,680円をやや下振れる程度にとどまった。

タカ派に傾くFRB高官発言、緩和を先読みする市場への牽制

IMF主催のパネル討論でのパウエルFRB議長発言は、11月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に金市場に生まれた、FRBによる利上げサイクルは終了との見方を牽制するものとなった。

パウエルFRB議長は、FRBは金利がインフレとの戦いを終わらせるのに十分高い水準に達しているとは「確信していない」とし、「政策をさらに引き締めることが適切となれば、躊躇することなく引き締める」と発言。この発言で市場は景気やインフレ動向次第で追加利上げに動く可能性を再び意識することになった。

同じ11月9日に米フロリダ州のイベントで講演したボウマンFRB理事は「インフレ率を2%目標に適切なタイミングで低下させるには、FF金利誘導目標をさらに引き上げる必要があるだろう」と以前からの見方を示す一方で、11月会合にて据え置きを支持したことを挙げ「現行水準を維持しつつ、最新の情報とそれが見通しに与える意味合いの精査を続ける」と発言した。

さらに11月10日は米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁が、経済チャンネルCNBCにて「このところのインフレに関するニュースはまずまずの内容だ」とする一方で、インフレを巡り「勝利を宣言するのはまだかなり尚早」とした。インフレ率を目標の2%に戻すためのFRBの利上げが終わったか明言する準備はできていないとも述べたが、これはパウエルFRB議長の発言内容に沿ったものだった。

いずれの発言内容も市場のインフレに対する警戒感のゆるみを牽制する意味合いが強いと思われ、とかく利下げのタイミングを先読みして動く市場センチメントの抑制を目的にしたものと思われる。

11月消費者の期待インフレ率の上昇

この流れの中で先週目に付いたのが、週末11月10日に米ミシガン大学が発表した11月の米消費者信頼感指数(速報値)だった。60.4と、前月の63.8(確報値)から低下し、5月以来の低水準となった。

低下は4ヶ月連続で、市場予想中央値の63.7も下回った。注目されたのは、同時に発表した予想インフレ率(期待インフレ率)の結果で、1年先の予想インフレ率は4.4%と10月(4.2%)から上昇。長期(5~10年先)は3.2%と前月の確報値から0.2ポイント上昇した。

これは2011年以来、12年ぶりの高水準であり、FRBの歴史的な引き締めにも関わらず、消費者はインフレが鎮静化すると見ていないことを表すものと言える。おそらくこの結果にFRBは警戒感を高めるものと思われる。一般消費者の期待インフレ率、特に長期見通しの上昇はFRBにはもっとも避けたい項目とみられることから、当面神経をとがらせ、タカ派的な発言が続きそうだ。

今週の見通し:11月14日の米10月CPIと11月17日までの米暫定予算成立の有無に注目。NY金は1,930~1,960ドル、国内金価格は9,400~9,650円を想定

今週は何と言っても11月14日に発表される10月の米消費者物価指数(CPI)が注目点となる。ここまでインフレの鈍化を感じ取っているのは市場のみならずFRB関係者にも多いが、それゆえ、上振れとなった場合に金市場への影響は大きくなりそうだ。米長期金利を通してNY金への影響と同時に、米ドル/円相場を通しての国内価格への影響の双方となる。

さらに先週末11月10日に格付け会社ムーディーズによる米国債の格付け見通しを発表し「ステープル(安定的)」から「ネガティブ(引き下げ方向)」に変更したが、週明けの市場の反応がどの程度のものになるかも注目事項となる。

折しも今週末11月17日には、9月末にかろうじて与野党間で合意した暫定予算の期限が到来する。米下院のジョンソン議長(共和党)は11月11日、共和党の暫定予算案を発表した。イスラエルやウクライナへの支援といった追加予算は盛り込まれておらず、与野党双方から反対の声が出ているとされる。

11月17日までに成立しない場合、軍人を含む米連邦政府職員への給与の支払い停止や、政府機関の閉鎖で航空管制に影響が出る可能性などが指摘されている。ちなみにムーディーズは、政府機関の閉鎖という事態は、米国債格下げの事由の1つになるとしている。さらに今週もFRB高官による発言機会も予定されており、こちらも注目となる。

そのような中、今週のレンジは200日移動平均線のサポートを読み、NY金は1,930~1,960ドル、国内金価格は9,400~9,650円を想定している。

【図表】ゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券