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金相場急騰の謎、突然の上昇に熟練アナリストも困惑

  • 3月初旬以来14%上昇、重力に逆らうラリーで連日のように高値更新
  • 地政学的緊張は何年も前から、米利下げ時期の見通しは最近不透明に
An employee handles one kilogram gold bullions at the YLG Bullion International Co. . 

An employee handles one kilogram gold bullions at the YLG Bullion International Co. . 

Photographer: Chalinee Thirasupa/Bloomberg

金相場の史上最高値への急騰は、地政学的情勢や世界経済の不透明な見通しを考えれば、遠目には簡単に説明できるかもしれない。金は「安全な逃避先」として有名であり、金利低下時に上昇するというのが一般的な見方だ。

  それでも、より詳しく見てみると、金が今、突然上昇している理由は判然としない。

  数カ月間かなり安定したレンジで取引された金は3月初旬に急上昇し始めた。それ以来14%上昇し、連日のように高値を更新している。しかし、地政学的緊張は何カ月、いや何年も前から高まっているし、米金融当局による利下げ時期の見通しはどちらかと言えば、ここ数週間で不透明化している。では、何が変わったのだろうか。

  金を空前の高値に押し上げた主体や要因について、経験豊富な業界幹部やアナリストらは全く異なる答えを示している。経済的武器としてのドルの役割を心配する中央銀行なのか、それとも米金融当局が近く利下げに転じると賭けるファンドなのか。あるいはアルゴリズムトレーダーらが、単に上昇しているからという理由で金に引き寄せられたのか。根強いインフレとハードランディング懸念が要因なのか、通貨安か、間近に迫った選挙か、あるいは上記のすべてか。

  この謎を解くため業界関係者は、ニューヨークから上海にわたる金の先物と上場投資信託(ETF)や、ロンドンの巨大な店頭取引市場、そして世界各地に広がる金の延べ棒やコイン、宝飾品の販売ディーラー網といった巨大な取引ルートを掘り下げている。

  それは不透明で複雑な世界で、扉を開くのはこれまで困難だった。それでも、市場と規制当局による数年にわたる透明性向上策により、世界最古の富の貯蔵手段の一つである金の重力に逆らう高騰に、もう少し光を当てるデータへのアクセス機会は増えている。

買いの主体は?

  まず、簡単な答えは中央銀行、および金融緩和へのシフトに備える大手金融機関とトレーダーだ。中国の消費者は、他の資産や通貨安によるリターン低下を懸念している。ソーシャルメディアの米レディットのプラットフォームでは、自称「スタッカー」たちが金の延べ棒やコインを買いだめしていることを自慢している。

  しかし、これらの買い手グループは数カ月間、中銀の場合は数年間、一貫して強気であるため、そのうちの誰かがこれまでよりはるかに大きな懸念や貪欲さ、高揚感を持って購入しているとすればその理由は不明だ。アナリストらはこれまでにないほど優れた市場データで武装しているが、それでも累積的な答えはいら立たしいほど曖昧で、誰もが一斉に買っており、特定の誰かではないという。

Central Banks Boost Their Gold Holdings

Source: IMF IRS, Respective Central Banks, World Gold Council

何を買っているのか?

  理解しがたい明らかな一つの事実がある。それは、金を入手する最も簡単な方法の一つであるETFを投資家は買っていないことだ。金ETFからの資金流出が続いている状況は、主な投資家層が金を買いそびれているか、現金化していることを示唆している。

  ETFストアのネイト・ジェラチ社長は、「これはETF分野で見たことのない奇妙な現象の一つだ。特に興味深いのは、金の需要が中銀による購入や個人投資家による直接購入など、他のチャンネルでは非常に力強いことだ」と述べた。

  シティグループはETFへの資金純流入が著しく弱いことについて、数年前に購入した長期投資家による利益確定売りが理由だと説明する。

  ワールド・ゴールド・カウンシルのETFプラットフォームを監督するジョー・カバトーニ氏は、着実かつ大規模な資金流出が価格に大きな影響を与えていないという事実は、ETFが売却してきた金の延べ棒への旺盛な需要を示していると指摘。「その金はどこに行くかというと、店頭市場に流れ、中央銀行に拾われる」とインタビューで述べた。

ETF Outflows Continue While Gold Surges | The volume of gold held in the largest ETF has been falling for two years
 
 

どこで買われているのか?

  規模が大きめな先物市場と店頭市場では、取引量が急増しており、中銀と投資銀行、年金基金、政府系ファンドなど、通常の機関投資家からの買いが入っていることを示している。オプション取引も活発化しており、オプションディーラーがエクスポージャーのカバーを急いでいることから、金価格がさらに上昇するとの期待感がある。

  ニューヨークの先物の未決済建玉残高は増加しており、マネーマネジャーによる長期投資の増加傾向を示している。だが、全体の取引量は未決済建玉数を上回っており、アルゴリズムファンドが得意とする熱狂的デイトレードの急増を示唆している。

Trading Volumes Surge

Source: Sources: Bloomberg, COMEX, Dubai Gold & Commodities Exchange, ICE Benchmark Administration, London Metal Exchange, Multi Commodity Exchange of India, Nasdaq, Shanghai Gold Exchange, Shanghai Futures Exchange, Tokyo Commodities Exchange, World Gold Council

いつ買っているのか?

  主に月、水、金曜日だ。金市場は米国の経済データの変化に敏感なことで有名だが、3月初めに価格が急騰し始めて以来、その傾向はさらに強まっている。これらの曜日に発表される主要な経済指標は製造業や雇用、国内総生産(GDP)、インフレの強さを示すもので、データ発表後に見られる集中的な買いは、最も影響力を持つ買い手の正体を知る有力な手がかりとなる。

Investors Buy Gold Three Times a Week

The latest rally is coming in spurts as investors react to key US data

Source: Bloomberg

  しかし、それ自体がアナリストを困惑させている。というのも、最近のデータは景気の好調さを示しており、為替・債券市場の投資家は、米金融政策の転換が数カ月前の予想よりも遅く、浅くなるとの見方に転じている。

  理論的には、高金利は債券などの利回りを生む資産と比較して金の魅力をそぐため、金相場にはマイナス要因となる。また、投資家はドルを押し上げているため、主要な金消費国の中国とインドの買い手には価格がかなり高くなっている。

なぜ今買うのか?

  それが大きな疑問だ。米金融当局が年内に利下げを開始すると予想され、金に恩恵をもたらすと見込まれる一方で、実際には多くの投資家がその時期について数カ月前ほど確信を持てなくなっている。

  一つの可能性としては、最近のデータから米経済がハードランディングすると予想した一部の金投資家が、資金の逃避先として金の購入を急いでいることだ。

  サクソバンクのコモディティー戦略責任者オーレ・ハンセン氏は、「金の上昇は多くの通常の考え方を覆している。まだ高い金利に関しては特にそうだ」と指摘。シナリオは根強いインフレとハードランディングの可能性にシフトしつつあり、地政学的な不確実性と脱グローバル化を受けた中銀需要の影響もあると分析した。

Gold Price Spread Has Made a Rare Dip Below the Fed Rate
 
 

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原題:The Gold Market Hunts for Answers Behind Bullion’s Sudden Surge(抜粋)

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