最盛期過ぎた金融相場、中国など情勢不安定化

最盛期過ぎた金融相場、中国など情勢不安定化
6月21日、米FRBが量的緩和第3弾の年内縮小を視界に入れ、過剰流動性に支えられた金融相場は最盛期を通過し、下り坂に入ったようだ。写真は都内で撮影(2013年 ロイター/Issei Kato)
[東京 21日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和第3弾(QE3)の年内縮小を視界に入れ、過剰流動性に支えられた金融相場は最盛期を通過し、下り坂に入ったようだ。
同時に中国など新興国で経済情勢が不安定化し、グローバル投資家が緩和マネーで膨らませてきたリスクオン・ポジションの反動に警戒が高まっている。業績相場へと円滑に移行できるか不透明な要素が多く、今後も相場が乱高下するリスクを秘めている。
<中国懸念がいったん後退>
海外市場で増幅した流動性縮小への不安は、21日のアジア市場での取引時間帯に入って落ち着きを見せ始めた。
日経平均<.N225>は海外株安を嫌気し、一時300円安の1万2700円付近まで下落したが、売り一巡後は下げ幅を縮小。上海総合指数<.SSEC>などアジア株が下げ幅を縮小させると、後場はプラス圏に浮上し、一時300円高の1万3300円台まで上昇した。ドル/円も日本株の切り返しにともない97円後半まで上昇している。
きっかけは中国短期金融市場だった。指標となる7日物レポ金利(加重平均)が20日に記録した過去最高の12.06%から、21日の市場では一時8.10%まで低下した。
市場では、中国人民銀行が主要国有銀行にキャッシュオファーのガイダンスを行ったとの観測が広がり、高まっていた流動性ひっ迫懸念が後退した。日本株も「アジア株が下げ渋ったことで安心感が出た」(準大手証券)という。
中国では、9カ月ぶりの低水準となった6月製造業PMIなど弱い経済指標が続いており、このまま短期金利の上昇が続けば、実体経済にさらなるダメージを与えることが警戒されている。
だが、依然として金融市場は中国政府のコントロール下にあるため、情勢が一方的に悪化する不安は大きくないとの見方もある。
SMBC日興証券・中国担当エコノミストの白岩千幸氏は、金利上昇容認の背景には、影の銀行(シャドーバンキング)のディレバレッジを促す目的のほか、中国の金融政策に対するスタンスが変わったことがあると指摘する。「構造改革を進めるためには、金融システムを変えなければならないとの方向に19日の中国国務院・常務委員会の決定を機に変わったようだ。市場金利を尊重するように変わり始めており、将来的には金利の自由化に向かうだろう。一方、金融機関が破たんするような場合は政府が乗り出すとみられるため大きな心配はない」と話している。
<円安が日本株支える>
市場では、バーナンキFRB議長が示したQE3の年内縮小の可能性はある程度、予想されていた。米経済は緩やかながらも着実に改善しており、FRBがいずれQE3という流動性の「蛇口」を締め始めるのは避けられないためだ。
「年内に縮小を始め、来年後半には縮小が終了すると時期が明示されたことも不透明感の後退につながった」(国内投信運用担当者)との声も多く、市場はネガティブな受け止めだけではない。投資家の不安心理が予想以上に高まったのは、中国など新興国の金融市場が不安定化したことが大きな要因であり、アジア市場でリスクオフムードが後退したことで、市場は落ち着きを取り戻し始めている。
日本株は、ほぼ1カ月間で約2割調整してきたこともあるが、円安も下支え要因となっている。リスクオフムードが広がるなかでも、対ドルでは円高が進まず、米金利上昇を重視して円安方向に振れていることを好感し、海外の株式より底堅い展開となっている。
クロス円での円買い圧力が、ドル/円に波及するリスクがあり、新興国市場の動向には依然警戒が必要だ。
一方で、米金利の上昇を材料に円キャリートレードが復活するとの見方も出ている。「ドル/円の上昇は短いゾーンの米金利上昇が主要因だ。QE3縮小で、近い将来、調達コストの上昇が予想されることからファンディング通貨をドルから円に切り替えている。円の短期金利が日銀の金融緩和で押さえられれば、円にファンディング通貨がシフトし、円キャリートレードが起きる可能性もある」(三菱UFJ信託銀行・資金為替部グループマネージャーの塚田常雅氏)という。
<資金流出止まらない金市場>
だが、2008年11月に導入されたQE1以来、続いてきた金融相場が終えんに向かう可能性もあり、緩和マネーの巻き戻しが加速することには警戒が必要だ。
4月に急落し、金融相場転換の先駆けとなった金市場は、依然回復の兆しを見せていない。20日のニューヨーク市場で、金先物中心限月8月物は2010年9月下旬以来、約2年9カ月ぶりに1300ドルの大台を割り込んで終了した。
世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールド・シェアーズの信託金残高は、昨年末時点で約1350トンだった。ところが、今年に入って減少が続き、6月19日には1000トンを割り込んだ。大台割れは2009年2月17日以来。「QE1以降、FRBのマネタリーベースの拡大とともに金価格も上昇してきたが、QE3縮小観測の強まりとともに大台を割り込み、潮目の変化を感じる」とばんせい投信投資顧問・商品運用部ファンドマネージャーの山岡浩孝氏は話す。
日米経済は持ち直しているが、「金融相場」から「業績相場」にすぐさま移行できるほど強くはない。グローバル化したマーケットでは、ある市場が大きく崩れれば、隣接する市場も大きな影響を受ける。「流動性の低い金融市場では、調整が一巡するまでに時間がかかる。下落したままの相場をみれば、投資家としては心穏やかでいられない。そうなれば投資家のリスク選好度の低下を通じ、先進国市場にも影響してくる」と、りそな銀行・総合資金部チーフストラテジストの高梨彰氏は警戒している。

伊賀 大記 編集:田巻 一彦

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