【日経マネー特集】円の一部を金(ゴールド)に換えて資産保全を
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■米国の利上げ日本のマイナス金利でも金が強いのはなぜか?
大橋 2016年に入り上昇トレンドにあった金の国際価格ですが、5月初めに1トロイオンス1300ドル台をつけた後、足元は1260ドル台まで下がっています。なぜ金は売られたのでしょうか。
亀井 ニューヨーク市場の大口投機筋のポジションで、ロング(買い持ち)の残高が警戒水準の1000トンを超えたことから、利食い売りが出たと見られます。金の国際価格は年初1060ドルから始まって、わずか5カ月で1300ドルまで上がりました。ポジション的にも、価格的にも、修正が入ってもおかしくないレベルにあったといえます。
金相場のトレンドは、昨年12月の米連邦準備理事会(FRB)の利上げによって大きく変わりました。それまでは、利上げを材料にドルが買われ、コモディティが売られてきたのが、あそこで大きく転換したのです。
その後も、中東不安や中国の人民元リスクなどが重なって、金相場は順調に推移してきました。
大橋 利上げが実施されるとドル高になるので、金にとってはマイナス要因になると考えられますが、逆に金が強くなっているのはなぜでしょう。
亀井 利上げ観測によって、金価格の下落を見越した投機筋のショート(カラ売り)が積み上がっていたのですが、1050ドルを割れたところで、中国の上海市場で大量の現物買いが入り、価格が支えられました。あわてた投機筋による買い戻しが起こったのが今年1月です。そこに日銀によるマイナス金利というネガティブサプライズが加わったことで、2月に入ってからは新規資金が金市場に流れ込んでいます。
大橋 なぜマイナス金利だと、金にとってプラス要因となるのですか。
亀井 ひと言で言うと、金利を生まないという金のデメリットが、マイナス金利によって打ち消されるからです。もう一つ、マイナス金利の導入は金融政策が手詰まり状態になったイメージを与えたことで、投資家の不安心理が増大し、守りの資産としての金に注目が集まりました。
池水 金自体は何も変わっていないのに、円、ユーロがマイナス金利になったことで、もともと金利のつかない金の魅力が相対的に増したということです。不安要素は金にとってプラス材料となります。逆に言うと、金が上がるときは、世の中があまりよくない状態のときでもあります。
■金を買うというより世界共通の価値を持った国際通貨に交換する感覚で
大橋 低成長、低金利が世界的に進行するなかで、中国やロシア、カザフスタンなどの中央銀行は、外貨準備として金の購入を増やしています。他の資産と比べても、それだけ金の魅力は高いということですか。
亀井 金を購入するというよりも、金(ゴールド)という世界共通の価値を持った国際通貨に交換するという感覚があるのでしょう。ゴールドにしておけば、いざというときに何にでも換えられます。とくにドルとの換金性が高いから、新興国の中銀は資産の分散先として金を購入しているのです。
金を買うのではなく、円の一部を金(ゴールド)に交換する――。そうした感覚で日本の個人投資家にも金と付き合っていただきたいですね。マイナス金利というのは、紙幣を大量に流通させて、円の値打ちをなくそうとしていることです。自国の通貨の価値が下がっていくような国に住んでいる人は、金やプラチナといった貴金属に資産の一部をシフトさせてもいいと思います。
大橋 マイナス金利の長期化は、すなわちデフレからなかなか脱却できないジレンマに陥っていることを意味しますが、デフレ時代になぜ金なのか不思議な気もします。かつては、「インフレヘッジの手段としての金」とも言われてきましたが、考え方を変える必要があるのですか。
亀井 デフレも行き過ぎると混乱につながります。本当に行き過ぎた状態は恐慌です。恐慌が起きないように金融政策をフル稼働させているのです。歴史的に見ても類のない規模で進められる金融緩和は、一方で金融波乱の種をまいていることにほかなりませんから、デフレでも金を持つ意味はあります。
■金価格、今後の見通しは?ドル建てと円建て、投資妙味があるのは?
大橋 長期的に見ると、1900ドル台まで上がった金が1000ドル近くまで下がり、米国の利上げ実施をきっかけに反転し、上昇しているというのが、ドル建ての金のトレンドです。
一方、円建ての金価格は、ドル建て金ほどには上昇していません。やはり円高の影響が上値を
重くしているのでしょうか。今後、投資妙味があるのはドル建ての金と円建ての金のどちらでしょうか。
亀井 私は円建てだと思います。マイナス金利の行きつく先は金融市場の波乱です。将来的には長期金利が急騰し(国債価格は下落)、円安トレンドが鮮明になるでしょう。マイナス金利を採用した時点で、私は1980年1月につけた最高値1グラム6495円を更新する道筋ができたととらえています。
池水 マイナス金利という前代未聞のことが行われているわけですから、これから先、何が起こってもおかしくありません。マイナス金利に反応して、現金を引き出し、自宅の金庫で保管する人も増えていると聞きます。将来、株価が暴落したり、通貨が不安定な動きになると、不安心理の増大とともに、円建ての金の価格が上がることは十分あり得ます。
大橋 5月は投機筋の金ロング残高が1000トンを超えたことで、利食い売りにさらされ下落しましたが、2008〜2011年の相場では利食いが起きても再び買いが入り1000トンまで金ロングが積み上がる、というような回転が効いた上昇相場が継続しました。今回もそのようなトレンドになるのでしょうか。
亀井 昨年見られたような、売り越しに近づくところまで金が売られることはないでしょう。買い建て(ロング)に適度に消化され上昇トレンドが続くと思います。
池水 5月初めの1000トンは、大きな興奮もなく、知らぬ間に積み上がっていきました。これまでの経験則で見ると、1000トンを超えると、確かに利食い売りが出るのですが、今後、英国の欧州連合(EU)離脱問題や米国の大統領選挙などが控えていることを考えると、下値はそんなに深くはないのではないか。むしろ、今回下がったところが買い時だったと、後になって気づかされるかもしれません。
※日経マネー2016年9月号 ゴールドフェスタ特集より