Vol.4 有事の金と人類の歩み
私がいまだに忘れることが出来ない、とある映画のワンシーンがあります。
皆さんは”シンドラーのリスト”という映画をご存知でしょうか。スティーヴン・スピルバーグ監督による1993年のアメリカ映画です。第二次世界大戦時のナチスドイツによるユダヤ人の迫害と1100人以上のユダヤ人工員の命を救おうと奮闘したドイツ人実業家オスカー・シンドラーの姿が実話に基づいて描かれています。私がこの映画を初めて見たのは、高校の世界史の授業の時間でした。内容は当時の私にとって非常にショッキングなものでした。
その中でも特に記憶に残ったワンシーンは、ユダヤ人の家族がナチス親衛隊から逃れる際に煌びやかな宝飾品をパンに包んで食べる場面です。彼らは危機的状況から逃れる際に、財産を胃の中に隠したのです。財産は指輪やネックレスなどの宝飾品で、特に金などの貴金属でできたものが多かった記憶があります。貴金属を体内に隠す際に、人体への害がほとんどないとされる金が選ばれてきたのかもしれません。このように財産を現金や不動産ではなく宝飾品として所有して、有事の際には身につけて(もしくは身に隠して)災難から逃れるというのは一種の知恵であると言えます。文字通り“有事の金”というわけですね。しかし、このような知恵が民族問題や歴史の動乱を背景にしていると考えると、少し複雑な気持ちになります。今の日本は平和ですが、もし仮に何らかの危機(戦争やテロ、大規模災害等・・・)が起こった時に、その身に着けていた金の宝飾品があなたの命を救うことになるかもしれません。
今ではITの発展のおかげで、金の購入や保管の手続きがオンライン上で手軽に出来るようになりました。手続きの簡単さや自宅に現物を保管するリスクを考えると、非常に便利な世の中になったと思います。これならばどんな危機に陥ってもIDやパスワードさえ忘れなければ、金をわざわざ体内に入れることなく持ち出しが出来ます。(もちろんネットワークが存続していることが前提ですが。)
遥か昔から人類の有事とともに歩んできた黄金がこれからの技術や世界の変化と共に、どのようなドラマをうみだしていくのでしょうか。今後も目が離せません。