ゴールドコラム & 特集

Vol.17-箔打紙はとってもオマセさん!?

「のりくちまんじゅう」に続いて、またしても気になる業界用語に出会いました。若手(ウソ、大げさ)のワタクシには見聞きするすべてが新鮮?

今回も職人同士の会話からキャッチ。
「スラしてマセさせるがや(させるんだよ)」
そう言う職人Sさんの手にはまだ仕込み中の打ち紙。
スラす? マセてくる? スラスラ?としてますます…ご清祥のこととお慶び? そんなワケないじゃん! 教えて、職人さ?ん。

Sさんの箔打ち紙は、水や藁灰汁・柿渋・卵白などの混合液に浸して絞り、一枚ずつはずして揃え直して機械で打って…という"アク"と呼ばれる紙仕込みの一連の作業を2?3回済ませた状態。ここで一度、澄(ずみ。1,000分の1?2mmの薄さ)を挟んで打とうかというところです。つまり、一度、小間打ち紙(わからない人はvol.16を参照!)として使ってみるわけです。もちろん、この紙ではまだまだ10,000分の1?2?の箔にまで打ち延ばすことはできません。
「金を挟んでスラさんことにはマセんからね(スラさないことにはマセないからね)」とSさん。

‘スラす’は‘すれる’、‘マセさせる’は‘ませる’からきているとのこと。
『大辞泉』によると、‘すれる’は「いろいろの経験をして、純粋な気持ちがなくなる。世間ずれがする」そして、‘ませる’は「年齢の割におとなびる」 ですって。
「スラしてマセさせる」はすなわち、「意図的に世間ズレさせて、オマセさんにする」ということでしょうか。


‘アク’を3回終えただけの、まだ若くて初々しい紙をマセさせるために、澄を挟み入れて打ちます。


箔打ち機とは違って、太い筒の打ち機でゆっくり慣らすように。箔打ち機でいきなり打つと紙が傷んでしまいます。


30分ほどゆっくり打ったもの。その後、冷ましながら様子を見て再び打つ、をくり返して12?前後に延ばして‘金の道’づくりは終了。また‘アク’の作業をします


金を打つといっても紙仕込みが完了したわけではありません。ある意味、これも箔打ち紙に育てるプロセスのひとつです。紙仕込みといっても‘アク’の作業ばかりではありません。金を挟み入れて打つことにより、紙に箔を延ばすための肌ができてくるのだそうです。‘アク’ばかりをずーっとしていても紙は育たないのだそうな。
つまりですね、本を読んで勉強するだけではなく、世の中に出て経験を積まないと一人前にはなれませんよ、ということなんですね。もちろん、勉強(アク)も大切。でも世間を知らないと(実際に金を打たないと)、一人前の大人(箔打ち紙)とは言えませんものね。
Sさんいわく「ま、いっぺん金を入れて打って、金の道をつくるわけやね」
金の道! シルクロードならぬゴールドロード!

ちなみに「のりくち」(vol.16を参照!)は、もっと後。めでたく「のりくち」の日を迎えるために、スラしてマセさせるのです。

一人前になるべく、もっと世の中のことを知らないとなー じゃ旅にでも出るか! 休暇届けには「ゴールドロードを求めて」とでも書いて…休み明けにはデスクがなくなっていそうです。


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プロフィール

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HAKUZA

世界に誇る伝統の技を残し、世界遺産となった中尊寺金色堂など重要文化財の金箔を手がける。2002年、「純金プラチナ箔」(特許取得)を開発。箔本来の力と美しさを「箔品」として表現し、「箔座本店」をはじめとする石川県金沢市の直営店のほか、東京日本橋で旗艦店「箔座日本橋」を展開。

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