ゴールドコラム & 特集

Vol.26-人という字は支えあって、金箔と打ち紙は支えあって

今回は、金箔と打ち紙の関係に見る興味深い話をひとつ。

金箔づくりは、金・銀・銅などの合金をつくり約1千分の1mmの薄さの「上澄」にするまでを澄(ずみ)の職人が手掛け、「上澄」から1万分の1?の薄さの「箔」に仕上げるのが「箔」の職人の仕事です。「上澄」からいっきに1万分の1?の薄さにするのではなく、いったん「小間紙」と呼ばれる打ち紙である程度の大きさに打ち延ばしてから(打ち上がったものを「小間」という)、別の打ち紙「まま紙」へ移しかえてさらに打ち、「箔」にします。

「小間紙」と「まま紙」はとてもよく似ており、職人でないとちょっと見分けがつきません。
1本(約1800枚の束をこのように言います)の打ち紙を、最初から最後まで「小間紙」として使いきる職人もいますが、多くの場合、はじめのうちは「小間紙」として使い、様子を見ながら仕込みを重ねて「まま紙」に育てていきます。

まだ仕込みが浅い段階の打ち紙は、1万分の1mmの「箔」にまで延ばす力がないから「小間紙」なのだ、という認識しかありませんでした。力も経験もない若造の紙には、1万分の1?などという極薄の段階の仕事は任せられない、ということなのだと。
つまり、金のため、箔のために渡し仕事(「小間紙」から「まま紙」へ移しかえること)があるという認識です。


向かって右側の「小間紙」から左側の「まま紙」に一枚一枚移しかえしていく「渡し仕事」。1日仕事です。


右側が「小間紙」で打ち上げた「小間」。かなり薄いですが、まだまだ「箔」とはいえません。左側が「まま紙」で打ち上げた「箔」。


ところがある日、渡し仕事について話をしていたところ、職人から思いがけない言葉が!
「紙をたくさんもっとったら、せんでもいいかもしれんけど(もっていたら、しなくてもいいかもしれないけれど)。」
え? 紙のため?
「そう。紙が傷むもん。困る。」
渡し仕事は打ち紙のためにするとは、目からウロコでした。

箔打ち紙は職人の最も大切なもので、箔打ち紙を仕込めるようになって初めて一人前の職人です。数ヶ月もの間、数十万円もする高価な和紙の原紙を丹精こめて仕込みます。ようやく金箔を打てる紙「まま紙」(まま=飯)に育った時にはまんじゅうを配ったものだといいます。
「上澄」は1千分の1?とはいえ、紙と紙の間で微細ながらも段差が生じる厚さ。打ち紙にとっては結構な負担です。しかも、1万分の1?まで打ち延ばすには、どれだけ機械で打つことか。途中で「まま紙」に移しかえることなく打ち上げると、紙の寿命は縮まってしまいます。

「でもね、小間紙として使うがも(使うことも)紙を育てるのに必要なんや(必要なんだよ)。」と職人。
というのは、紙仕込みでは、紙を水や藁灰汁に浸けて、絞って、それを一枚ずつはがして、といったことを何度も繰り返します。そうしていると、紙の表面が毛羽立ってきます。それでは金は延びません。そこで、まだ厚い「上澄」を挟み入れて打つことで表面が滑らかに慣らされるのだそうです。

違った側面から物事を見るって大切ですね。
打ち紙は金箔のために。金箔(正確には上澄または小間)は打ち紙のために。
ひとりは皆のために、皆はひとりのために。
ワタクシは箔座のために(そうそう!)、箔座はワタクシのために(オイオイ・・・)。


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プロフィール

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HAKUZA

世界に誇る伝統の技を残し、世界遺産となった中尊寺金色堂など重要文化財の金箔を手がける。2002年、「純金プラチナ箔」(特許取得)を開発。箔本来の力と美しさを「箔品」として表現し、「箔座本店」をはじめとする石川県金沢市の直営店のほか、東京日本橋で旗艦店「箔座日本橋」を展開。

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