ゴールドコラム & 特集

Vol.27-角が立つ!

テレビの取材があり、打ち上がった金箔を箔打ち紙から一枚ずつ抜き取り、手漉きの和紙を帳面状にした「広物帳」に移していく職人の作業「抜き仕事」を撮影していたときのことです。撮影スタッフの方が動いたことでかすかに風がおき、金箔が端からめくれてクシャクシャッとなりました。めくれたところは面積にして1/3ほどでしょうか。風がおさまると、職人はめくれたところを元のかたちに戻して一瞥し、それを箸でつかむとクシャッまとめて袋に入れました。つまり、この一枚はボツ、使えない箔になったということです。そのとき職人が言いました。
「角が立ってしもうて(立ってしまって)、死んでしもたし(死んでしまったし)。」
角が立つ? 箔が死ぬ!? 
何だか穏やかではない表現ですが、それはどういう意味なのでしょう。「1分でわかる金箔」ライターとしては捨てておけません。

「角が立つ、っていうのは箔がクシャクシャとなったところに細かな折線みたいな跡が残った状態。ほら、カクカクッと折れて角ができとるやろ。こんなんになったら、もう滑らかな表面にはならん。だから死んでしもうた、言うがや(って言うんだよ)。ようない(よくない)箔やね。はってもその跡が出る。」
裂けたわけではないですし、帳面に挟まれていれば自然と延ばされると私は思っていたのですが、それは甘かった! クオリティの低い金箔を堂々と仕上がり箔として紹介するところでした。さすが箔のプロフェッショナル。


打ち上がった箔を打ち紙から抜き取ります。どうしてもひだが寄ってしまいますが、これは大丈夫。


広物帳の上にふわりとのせたところ。抜き取るときに寄ったひだの跡は残っておらず、角が立っていません。


カクカクと折れ線がついて「角が立った」状態。実際は、切り廻しとして使えますので完全に捨てるわけではありません。


取材の時は、ほとんど風とも言えない様なかすかな空気の動きによって箔が「死んで」しまいました。わずかな鼻息でも箔に影響を与えるため、職人は常に神経を集中させて注意深く箔を扱います。

しかし、箔打ち職人のところできれいに仕上げても、箔に竹枠をあてて四角形に切り揃える「箔移し」の工程の段階で「角が立つ」こともあります。どの段階においても気を抜かず慎重に。角が立たないように、箔を死なさないように。
とはいえ、金箔は1万分の1?2?という極薄のふわり、ひらりとしたシート状のもの。ちょっと持ち上げただけでもひだが生じます。
「元に戻るものなら問題ないし、折れて刻んだような跡がつかんければ(つかなければ)大丈夫。」

なるほど。何かと似ているような・・・あ、わかった。肌も同じ。表情が動くことでその時に生じたひだは大丈夫。だけど、それがしっかりくっきり刻まれるとシワになる。とれないシワ、それが「角がたっている」ということですか。例えばこういう風に・・・と自分の手もとを例に確認すると、
「そうそう! そういうことやね。」と職人も同意。
ちょっと待って。自分で言っておきながらも、私の深く刻まれたシワ、にそんなに大きく頷かれるのも何だか複雑なんですけど!

いやいや、人間関係も角が立つのはよろしくありません。ましてや腹を立ててはなりません。やさしくていねいに。そう、金箔に接するように。


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プロフィール

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HAKUZA

世界に誇る伝統の技を残し、世界遺産となった中尊寺金色堂など重要文化財の金箔を手がける。2002年、「純金プラチナ箔」(特許取得)を開発。箔本来の力と美しさを「箔品」として表現し、「箔座本店」をはじめとする石川県金沢市の直営店のほか、東京日本橋で旗艦店「箔座日本橋」を展開。

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