Vol.2-審美眼を極めた絵師がたどり着いた境地
■琳派を代表する絵師
バレエダンサーを思わせるようなリズミカルなタッチで描かれた華麗なる鶴の群れ。
『群鶴図』は、江戸時代の琳派を代表する絵師・尾形光琳が描いた名作です。琳派とは、江戸時代に栄えた装飾芸術の流派のこと。純日本的な美しさを追求して展開させるなど、近世絵画史上で重要な役割を果たしました。尾形光琳はそうした装飾様式を大成した絵師としてその名を残しています。
この作品を強く印象づけているのは、鶴の背景に敷かれたきらびやかな金色の地。白と黒のモノトーンの鶴をくっきりと際立てるとともに、まるで鶴に高貴な光のスポットを当てているかのような神々しさを全体に漂わせています。
■幼い頃からの審美眼
尾形光琳は、京都の呉服商という恵まれた環境で育ちました。小さい頃から、能や茶道などをたしなみ、絵や工芸品に触れる機会も多かったと言います。そうした審美眼は、美しい作品に対するあくなき探究心に注ぎ込まれたのでしょう。はじめは狩野派に学んで筆を取った光琳でしたが、生まれ持った自由な発想から、従来の絵画にさらに優美で豪華絢爛な装飾性を加えて独自の世界を築きました。そこで、光琳が最も魅了されたと言われるのが金の存在です。『燕子花図屏風』や『紅白梅図屏風』など、よく知られる作品の多くに金箔や金泥が施されています。『群鶴図』も不朽の名作と言われる中の一つ。しかし、この作品に最初にスポットを当てたのは日本人ではなく、アメリカ人のチャールズ・フリーアという大収集家でした。ワシントンフリーア美術館がコレクションの中から『群鶴図』を買い取ったことから、光琳の名が一躍世界に知られるようになりました。もし、この作品が今でも日本に留まっていれば、おそらく国宝に指定されるだろうとも言われています。
■史上最高のデザイナー
金を施した光琳の作品の魅力は、何と言ってもその豪華さと格調の高さにあります。それらは派手でありながら上品さが漂い、華やかながらあか抜けしています。こうした装飾性を極めた光琳の作品は、屏風だけではありません。光琳デザインは、うちわ、着物、硯箱、印籠、百人一首、陶器などの工芸品に至るまでいかんなく発揮されました。ジャンルを超えた幅広い創作活動から、光琳は美術史上において最高のデザイナーとも評されています。また、光琳の残した功績は、それまで天下人にしか愛好されていなかった金箔の画を一般の大名や商人たちの間にまで広めたことも大きいと言われています。
日本画を描くときの醍醐味は、金色をどのように使って表現するかということ。まさに光琳は、金の魅力とその可能性を誰よりも先に知っていた絵師だったと言えるのではないでしょうか。