機関投資家にとっての金の最適保有比率は?
機関投資家のための運用情報誌「オル・イン」Vol25 Autumn,2012(2013年9月)号より。
■金需要減少の要因はインドと中国の落ち込み
「ゴールド・デマンド・トレンド 2012年第2四半期」によれば、2012年4?6月期の世界全体での金需要は、総量ベースで前年同期比7.1%減の990トンとなった。金額ベースでは、金価格が上昇しているためほぼ横ばいである。
この需要の落ち込みは、金・地金投資および宝飾品需要の45%を占める、中国とインドの需要減少による影響が大きい。インドについては、投資関連需要が前年同期と比べ半分の水準にまで落ち込み、宝飾品も30%減となった。前年同期の高水準に対する反動も減少の一因であるが、現地通貨ルピー(対ドル)安に伴ってインド国内でのルピー建て金価格が10グラムあたり30,000ルピーと心理的節目を超え、記録的高値を付けたことも購買意欲の抑制につながった。
また中国では、景気の減速に加え、金価格が方向感に乏しいことから、投資・宝飾品とも需要が伸びず、7%の減少となった。しかしインドと中国を除く民間の投資需要は16%増加し、特に混乱の続く欧州において堅調で(ドイツでは前年同期比で51%増)、価値の目減りしない資産として人気を集めた。
一方、世界の中央銀行等公的部門の需要は引き続き堅調で、4?6月期の買い越し額は157.5トンと、過去最高に達した。新興国を中心とした中央銀行による、外貨準備資産多様化のための金リザーブの拡大は、今後も継続すると思われる。
■リスク許容度により異なる金の最適保有比率
ワールド・ゴールド・カウンシルではこのほど、金の最適保有比率について分析したレポート「日本の投資家にとっての金の最適保有比率」を公表した。これは、日本の機関投資家が主に保有する伝統的資産、あるいは代替資産を含んだポートフォリオに、金を新たな資産クラスとして加える場合の、最適な割合について分析したものである。
政策アセットミックス策定のプロセスに沿った分析であり、各資産の期待リターンを想定し、最適化手法によって、金と伝統的資産の最も効率的な組み合わせを算出する。
伝統的資産の将来の期待リターンには市場参加者の予想を用い、また金の期待リターンとしては、インフレ率並み(実質リターン0%)という保守的な前提で分析している(表1)。また最適化のアルゴリズムは、結果が前提条件に左右されやすい伝統的マルコビッツの2次計画法の欠点をカバーし、入力データの曖昧さをあらかじめ加味したミショーのリサンプリング・効率的フロンティアTM(MM最適化法)を用いて、最適比率の統計的有意性を示している。
その結果、最適な金の保有比率は、投資家のリスク許容度により異なり、2.1%?9.4%であった。リスク許容度の大きな投資家ほど最適保有比率はおおむね高くなり、代替資産を保有する場合はやや低い割合となる。ちなみに、伝統的資産のみを保有しリスク許容度5%の投資家の金の最適保有比率は4.9%、リスク許容度10%の投資家の場合は8.7%となった(表2)。
金の将来の期待リターンが実質0%という非常に保守的な仮定のもとでも、金の一定比率以上の組み入れが正当化されたことは、金と他の資産との相関性の低さによる結果である。金がポートフォリオの中で、資産分散化の手段としての役割を果たすことを改めて示した。
【記事・データ協力:ワールド ゴールド カウンシル】
ワールド ゴールド カウンシルは、金市場の育成を目的とする組織です。投資、宝飾、テクノロジー、政府関連分野において金需要を喚起するため活動しています。世界の主要金鉱山会社をメンバーとし、英国本部、日本、インド、中国、米国などにオフィスを有します。