ゴールドコラム & 特集

テールリスク頻発の時代に、金は有効なヘッジ手段の1つ

機関投資家のための運用情報誌「オル・イン」Vol26 Winter,2012(2012年12月)号より。

■2012年7-9月期の世界の金需要

 「ゴールド・デマンド・トレンド 2012年第3四半期」によれば、2012年7?9月期の世界全体での金需要は、総量ベースで1084.6トンと、前の四半期に比べ10%の増加となったものの、過去最高を記録した前年同期比では11%の減少であった。

 第3四半期のポイントは、宝飾品需要とテクノロジー需要が小幅に減少する一方で、ETFの需要が前年同期比で56%増と大幅に伸びたことである。

また金の二大需要国であるインドと中国が、それぞれ異なった動きを見せた点も特徴的だ。

 インドの需要は、前年同期比9%増の223.1トンで、その内訳は、宝飾品需要が7%増の136.1トン、投資需要が12%増の87.0トンだった。今年前半までは、2回にわたる金の輸入税の引き上げ、また物品税導入提案による宝飾業者のストライキ、インドルピー建て金価格の上昇等を受けて、大幅な落ち込みとなったが、ここにきてセンチメントが改善し、需要は増加に転じた。

 一方中国では、国内景気の減速を反映して同期の需要は177トンにとどまり、前年同期比では8%の減少となった。宝飾品需要、投資需要ともに減少である。景気減速の消費者センチメントへの影響は、特に中産階級で顕著で、18カラット金宝飾品の購入が大きな打撃を受けた。その一方で、24カラット宝飾品の需要減は比較的軽微にとどまった。

 一方、世界の中央銀行等公的部門による同期の買い越し額は97.6トンで、引き続き購入が継続している。目立った国の1つとして、韓国の中央銀行は、準備資産の多様化を進める意向も明確にしており、7月には16トンを購入し金リザーブは29%の増加となった。

■テールリスク発生時の損失抑制効果を試算

 ワールド ゴールド カウンシルでは、「日本の投資家からみたテールリスクと金の役割」と題したレポートをまとめた。テールリスクの管理については、リーマン・ショック以降注目され、機関投資家が資産運用を行うにあたり、管理すべき重要なリスク項目の1つとなっている。

 このレポートでは、日本市場において過去発生したテールイベント時に、金を組み入れていればどの程度の損失抑制効果があったかシミュレーションを行っている。下の表は、過去のテールイベント発生時において、ポートフォリオの中に5%の金を組み入れていた場合の損失抑制効果を示したものである。為替ヘッジ(対ドル)を付けて金を保有する場合と、為替ヘッジせずに円ベースで保有する場合の2通りについて分析したところ、ともにほぼすべてのテールイベントの期間で金を保有することによる損失抑制効果が確認できる。

 また、将来想定される3つのテールリスクのシナリオを想定し、ある最適化ポートフォリオが被る損失を推計、また金を組み入れることによる損失抑制効果についても試算した。過去のテールイベント発生時と同様、資産損失を抑制する可能性があることを示す結果となった。

 将来起こるかもしれないリスクに対して、万が一の備えをしておくことが必要である。信用リスクがないこと、通貨分散としての利用、インフレヘッジとしての利用など、さまざまな特性を持つ金は、ポートフォリオが持つ多様なリスク要因を管理するうえで、ヘッジ手段の1つとして選択肢にのぼるだろう。



【記事・データ協力:ワールド ゴールド カウンシル
ワールド ゴールド カウンシルは、金市場の育成を目的とする組織です。投資、宝飾、テクノロジー、政府関連分野において金需要を喚起するため活動しています。世界の主要金鉱山会社をメンバーとし、英国本部、日本、インド、中国、米国などにオフィスを有します。

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オル・イン(for All Institutional Investors)は、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、不動産といったオルタナティブ投資はもちろん、株式・債券の伝統的運用もカバーする、機関投資家向けの「総合運用情報誌」です。年4回(3月、6月、9月、12月)発行。

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