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金とプラチナとパラジウム、どれが一番高い?

もし、貴金属の「金」、「銀」、「プラチナ」、「パラジウム」のいずれかを1キログラム(kg)貰えるとしたら、どれを選ぶべきだろうか。

かつては、プラチナを選ぶのが正解だった。金よりも希少性が高く、歴史的にこの4種類の貴金属の中では最も高額だったためだ。しかし、近年はプラチナ価格が低迷している結果、現時点では金を選ぶのが正解になっている。11月15日の東京商品取引所(TOCOM)の期先価格をみてみると、1グラム当たりで金が4,409円に対して、プラチナは3,036円となっており、1kgだと金の440.9万円とプラチナの303.6万円との間には137.3万円もの差が存在している。

ちなみに、最も選んではいけないのが銀であり、1グラム当たりで51.6円となっている。1kgでも5.2万円であり、若者向けの宝飾品でも多用できる価格水準であることが確認できる。

一方、パラジウムとなるとその値段が他の貴金属と比べて割高か割安かを言える人はあまり居ないだろう。身近な所では歯科治療の詰め物、宝飾品などにも使用されているが、主な消費先は自動車などの触媒用であり、一般の人が金やプラチナの地金やコインを購入することはあっても、パラジウムの地金やコインを購入したことがある人は少ないだろう。

市場規模としては、2017年実績で年間需要が1,015万オンス(1オンス=31.1グラム)とプラチナの782万オンスを大きく上回っているが、街中の貴金属買い取り商でも金とプラチナの価格は提示しても、パラジウムの価格を提示している所は殆どなく、パラジウムの宝飾品を持っている人も意識していないことの方が多いかもしれない。

しかし、このパラジウム価格が今急騰しているのだ。1グラム当たりだと3,788円となっており、既にプラチナ価格を大きく上回っている。今や金価格との価格差も急速に縮小しており、「4つの貴金属で最も高額なのがパラジウム」という時代が近づきつつある。

冒頭の問い掛けであれば、現時点では金を選択するのが正解である。しかし、ドル高の影響で金価格の低迷状態が続く一方、パラジウム価格の高騰が続く中、もしかしたら2019年中にもパラジウムを選択するのが正解になりそうな状況になっている。



■供給不足が深刻化しているパラジウム

円相場の影響を受けないNYパラジウム先物相場でみると、11月15日の取引で過去最高値を更新している。米中貿易戦争の影響もあって8月16日には1オンス=815.20ドルまで値下がりしていたのが、11月15日には一時1,161.50ドルまで値上がりしている。

背景にあるのは、需給ひっ迫化に対する極めて高いレベルの警戒感である。世界的に自動車排ガス規制の強化が進み、しかもディーゼル車の不正問題でプラチナよりパラジウムへの依存度の高いガソリン車のシェアが回復する中、パラジウムの需要は急増している。今年は1,029.7万オンスが予想されているが、これは5年前の2013年の908.9万オンスと比較すると13.3%の急増である。

一方、その間に鉱山生産は646.8万オンスから665.3万オンスまで2.9%しか増加していない。スクラップ供給が増えているため、総供給量だと823.8万オンスから896.9万オンスまで8.9%増加しているが、需要の伸びに対応しきれていない。もはや供給不足状態が当たり前の状態になっている。

本来であれば大規模な増産を進めるべきだが、パラジウムと同時に産出されるプラチナや非鉄金属相場などの低迷もあって、パラジウム相場が高騰してもなかなか増産圧力が強まらない。一方、世界経済の成長と連動して需要は着実に伸びており、来年、再来年と供給不足の量は逆に拡大する見通しになっている。

しかも、近年は米国とロシアとの関係悪化でロシアからの供給が大きく落ち込む可能性まで警戒されており、パラジウムの現物調達が難しくなっている。米国がロシアに対する制裁をちらつかせただけでアルミとパラジウムが急騰した例もある。

少し専門的な話をすると、NYMEXパラジウム先物相場だと、2018年11月渡しが1,154.00ドルに対して、約1年先の来年12月渡しは1,095.10ドルとなっている。通常だと、将来に渡されるものの方が、それまでの間の保管コストなどが加算されるために割高になるが、現在は在庫保管コストなどが必要ない直近の受け渡しの方が割高になっているのである。専門用語でこれを逆サヤと言うが、足元の供給不足が深刻化した際に発生する現象である。10月初めまで原油価格が高騰していた際にも、これと同様の逆サヤが形成されていた。

需要は伸びているものの、供給対応の目途が立たない状態に陥っているのがパラジウムであり、このままの状態が続くと貴金属で一番高価なのはパラジウムという状態が実現しそうだ。冒頭の無料で貴金属を貰えるようなシチュエーションは想定しづらいが、もしそのような機会があれば金でもプラチナでもなく、パラジウムを選ぶのが、もしかしたら現時点でも正解かもしれない。



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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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