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過去最高値を意識し始めた金価格、投資家を呼び寄せている要因は何か

金価格が高騰している。NY金先物相場は1オンス=1,800ドルの節目を突破し、2011年9月以来となる約8年10か月ぶりの高値を更新している。過去最高値1,923.70ドルまで、残り100ドルに迫る展開になっている。また、東京金先物相場も1グラム=6,200円台に乗せ、先物取引開始後の最高値を更新している。年初の5,303円から1,000円に迫る値上り幅になっている。



金は「安全資産」と言われるが、過去には投資家の不安心理が高まると値上がりしてきた。例えば、1979年にはソ連のアフガニスタン侵攻で東西冷戦が激化した際に、当時の最高値である873.00ドルを記録している。また、2008年のサブプライムローン問題でペーパー資産に対する信頼が大きく損なわれた際には、1,033.90ドルまでの高騰を経験している。では、現在は何が金価格の高騰を促しているのだろうか。

中心テーマにあるのは、連日のようにメディアを騒がせている新型コロナウイルスである。今年は株価急落など金融市場に大きな動揺をもたらしたが、未だ終息の目途が立たない状況になっている。特に、米国での感染被害が急速に広がる中、世界経済の先行き不透明感が急激に高まっている。米国の感染者数は既に300万人を超え、100人に1人が感染した状態になっている。未だに1日当たりの新規感染者数は過去最高を更新し続けており、本当に景気が回復に向かうのか疑心暗鬼が広がっている。

それにもかかわらず、世界の株価は高値圏を維持している。これから厳しい内容になることが確実視されている4~6月期の企業決算発表が本格化するが、投資家のリスク選好性は維持されている。強力な財政政策と金融政策で投機マネーの流動性は高まっており、実体経済とかい離した株高環境にあるのではないかとの警戒感が強い。一般的に、株高環境で金価格は値下がりし易いと言われるが、現在は「厳しい経済環境」と「株高」が共存する矛盾した状況に対する違和感、警戒感が逆に金価格の高騰を促している。

中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)は、ゼロ金利政策と無制限の量的緩和政策によって、経済の下支えを働きかけている。従来の米国債や住宅ローン担保証券(MBS)に加えて、今回は社債の買い入れにまで着手している。無リスク資産である国債購入でさえも投資家の危機感は強いが、リスク性の高い個別企業の社債までもFRBが購入していることに問題がないのか、疑問視する投資家が増えている。

強力な金融緩和措置はカネ余りの状態も作り出している。マネーストック(M2)の伸び率は、通常だと有事でも前年比で10%程度に留まるが、足元では24%を超えている。ドルの供給量が急増する中、通貨価値が既存されるリスクが警戒されている。このままFRBの強力な緩和措置が続けば、資産バブルが発生するのではないかとの警戒感は強い。世界同時危機後も金価格は高騰したが、その際のM2の伸び率は最大でも10%程度であり、現在はそれを遥かに上回るカネ余り状態にある。

また、議会は財政規律を無視した巨額の景気対策を相次いで打ち出しており、財政赤字は急増している。巨額の財政赤字をFRBが量的緩和政策の形で購入し続けており、財政規律が緩んでいることも警戒される。財政赤字の拡大は、国債のみならず国の信用も毀損する動きであり、政府の信用に基づかない特殊な資産としての金が再評価されている。

異例な低金利環境、米中関係の不安定化など、金を買う理由には事欠かない状態になっている。さすがにアジアの実需は金価格の急騰に対応できず、買い控え傾向を強めている。インドや中国など伝統的消費国では、宝飾品販売の低迷が顕著になっている。しかし、その一方で欧米投資家が金上場投資信託(ETF)を積極的に購入しており、価格が高騰しながらも需給の緩みは回避されている。

投資家が金保有の必要性はなくなったと評価する程に金融経済環境が安定するのはいつになるのか、その見通しが立つまで金価格の高騰は続くことになる。

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プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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