安全資産への需要が金価格を引き上げたのであろうか?
個人投資家は2018年の最終月に購入を上回る売却を行っていました。
それでは、安全資産の需要が今年の年初以来の数か月ぶりの高さへと金相場を動かしたのでしょうか?ここでブリオンボールトのリサーチダィレクターのエィドリアン・アッシュが解説しています。
ニュースの見出しや金融アナリストのレポートを読んでいれば、そのように思われることでしょう。
しかし、2016年6月の英国がEU離脱を決めた国民投票以来の先月の価格の急騰は、個人投資家にとっては利益確定の機会となったようです。
MSCIワールドインデックスにおいては2011年以来の下げを見せる等、世界株価が12月に7.7%下げ、ドル建て金価格が5.2%上昇することとなりました。しかしながら、ブリオンボールトのユーザーは、オンライン金現物取引市場で222キロを売却していました。
これは、全顧客が保有している金の0.6%ほどであり、これによって全顧客が保有し、チューリッヒ、ロンドン、ニューヨーク、トロント、シンガポールで保管している金総量を、11月の史上最高値から39トンへと減少させていました。
前月11月と比較すると、12月末に保有する金総量が月初より増加した顧客数は5.6%増加したものの、月間の売却量が購入量を上回っていた顧客数は、75.8%増加していました。そして、これは2018年1月以来の高い水準であったのです。
そのために、個人投資家の実際に金地金を取引したデータで算出されている金投資家インデックスは、11月の53.4から12月に51.8まで下げていました。これは、金価格が3.5%急騰した2017年8月以来の低い水準でもあります。
この数値が50の場合は、その月に購入量が売却量を上回っていた個人投資家数と、売却量が購入量を上回っていた個人投資家数が、完璧に一致したことを示しています。
昨年の夏は価格の下げからも、金投資家インデックスが7月に56.8へと上昇し、トランプ大統領が選出された2016年暮れ以来の高さへと上昇していました。そして、トランプ大統領が就任して以来の24か月間のうち20か月において、金投資家インデックスは金価格と逆方向に動いてきています。
そのため、ニュースで伝えられている安全資産としての金の需要が価格を上昇させたという説とは異なり、12月に株価が急落していたにもかかわらず、価格に繊細に売買を行う傾向は個人投資家の中では続いていたのでした。これは次のデータからも確認できます。
- 米国造幣局のアメリカンイーグル金貨の販売量は前年比93.0%減少していたこと。
- オーストラリアの造幣局パース民都における金の販売量が前月比5.5%減少していたこと。これは、6月以来の月間の低い水準。
- 世界第2位の金消費国のインドにおける需要が、2018年にほぼ年間続いていたルピー建て価格の高騰によって需要低迷が続いていたこと。
それでは、何が先月の金価格を押し上げたのでしょうか。
金を裏付けとするETFの残高は増加していました。これは、ウェルス・マネジャー等が株価急落による顧客の株式投資パフォーマンスが悪化する中で、リスクを感じ始めたことによる金投資への興味の高まりを示唆しています。
さらに劇的な変化としては、投機家の金先物・オプションの保有高の動きでしょう。12月半ばには、ネットショートポジションからネットロングポジションへと、弱気ポジションから強気ポジションへと切り替わっていました。
しかし、個人投資家の現物金地金への投資においては、「安全資産」の買いが起こっていませんでした。それどころか売却を行っていたのです。これは、金は先月にドル建て金価格では、過去3年間の3分の2の期間を上回る高い水準となっていたことからでした。そして、顧客全体の20.8%である、2015年に金価格が底を打った際に購入した顧客の中で、先月金売却が購入を上回ったネット売却者数の36.8%を占めていたのです。
またユーロ建てとポンド建てにおいては、さらに価格上昇が顕著で、秋の過去2年間で最も低い価格水準から2017年半ば以来の最も高い月間平均価格へと上昇していました。そのため、英国とユーロ圏の顧客の売却がより一層進んだのでした。
そのため、先月の個人投資家による金売却多くは、利益確定であったのです。ブリオンボールトにおいては、個人投資家が24時間いつでも専門市場で取引がされているスポット価格に限りなく近い価格で、しかも最大0.5%の取引料で売買をすることが可能であるために、このような動きを容易にしたのでしょう。
しかし、大部分の顧客はどのような価格でも、次に起こる可能性がある金融危機への保険として保有量の主な量を保有し続けています。そして、2018年に年間を通し見られ、特に12月に顕著となった価格に繊細な取引をする人々は、株価の下げが2019年にさらに進み金価格が急騰した場合、金を保有していないリスクを抱えることとなるでしょう。
金を長期で保有することが、地政学リスク、経済・金融リスクが高まりつつある2019年においては、賢い投資戦略と証明されるかもしれません。
銀においても、12月は2018年年初以来の最も多くの売却者数で、前月比60.1%増となっていました。しかし金とは異なり、金購入者数もまた、価格がドル建てで4か月ぶりの高さへと上昇する中で7.6% 減少していました。
そのために、銀投資家インデックスは2017年2月以来の低い水準の50.1と、月間の購入量が売却量を上回ったネットの購入者数と、売却量が購入量を上回ったネット売却者数がほぼ同水準となっていました。
重量にすると、購入量と売却量がほぼ同量であったことからも、ブリオンボールトの顧客が保有し保管する銀総量は748トンと11月の史上最高値から変化はありませんでした。
エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。
弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。