英国政府の小型補正予算がなぜ英国国債市場を混乱に陥れたのか
先週金曜日にリズ・トラス政権は小型補正予算を発表しました。
それは、不動産購入時の印紙税を削減し、高額所得者に対する45%の所得税最高税率を廃止し、基礎税率も20%から19%に引き下げ、またロンドンの金融街シティーに対する規制自由化も約束し、バンカーの賞与制限は撤廃するという450億ポンド(約7兆円)の減税を含み、個人や企業が直面する光熱費の高騰に対し、今後6カ月間で600億ポンド(約9兆5000億円)を拠出して支援するというものでした。
英国政府は規制改革を含む今回の措置で経済を活性化させ、イングランド銀行(英中央銀行)がすでに始まっていると指摘するリセッション(景気後退)に歯止めをかけて、2008年の成長率を金融危機以前の水準である2.5%に設定していました。
しかし、この補正予算案発表後、財政悪化の懸念から国債とポンドが売り込まれることとなりました。
英国ポンドは為替市場で下落し、対ドルでは40年ぶりの安値、対ユーロではコロナ危機時の安値まで下がり、英国が金本位制を停止した1931年、ハロルド・ウィルソン労働党内閣によるポンド切り下げが行われた1967年、英国がEU離脱を選択した2016年のように資本が英国から流出していました。
保守党新政権の新たな成長を促す補正予算が発表された23日ロンドン時間9時30分に債務管理庁によると、現在発行されている英国政府短期証券の総額は2兆1750億ポンドと記録的なものとなっていました。
このうち約8380億ポンドは量的緩和の影響もありイングランド銀行が保有しており、英国政府は さらに1250億ポンドの国債(時価ではなく名目)を保有しています。
つまり、年金基金、銀行、外国政府、地方政府、保険会社などが保有している1兆1780億ポンド相当の英国の国債が市場に出回っていることになります。
金曜日の朝、クワシー・クワーテング財務相が補正案の発表をする前に、政務管理庁(DMO)はすでに今年中に 960億ポンドを債券市場から調達する必要がありました。これは、2023年4月までの保守党政府の既存の歳出と歳入の差を埋めるために必要なものでした。
クワーテング氏の新たな成長計画( The Growth Plan 2022)には、2022/23年度に720億ポンドの追加国債発行が必要となります。そのうちの約100億ポンドは、短期財務省証券(インフレ率よりわずか8%ポイント低い短期金利)から調達されることが期待されています。そのために、現段階から4月までの間に620億ポンドが長期のギルト市場に投入されることとなります。
イングランド銀行は昨日、先週発表した今後12ヶ月の間に 800億ポンドの量的緩和による国債保有額を削減する計画を一時中断しましたが、当初の予定では満期を迎える保有するギルト債の一部の約400億ポンドがいずれは償還されることを考えると、4月までの間に市場に売却されるのは 1四半期あたり100億ポンドで4月までに約200億円が売却されることとなります。
そこで、先週金曜日の段階では今後 6 ヶ月間の英国政府の成長を促す政策の資金調達のために、1810 億ポンド分の国債の買い手を見つけなければならないという状況となります。
これは、この時点で市場に出回っている国債の13%以上に相当し、記録的な量と言えるでしょう。つまりは、6ヶ月間に現在保有されている国債7.65ポンドごとに1ポンドを追加購入するよう求めらることに相当します。
ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。