ゴールドコラム & 特集

ゴールドの需給

先週、先々週とシルバーの需給を見直してみました。さて今週は何を書こうかといろいろ考えてもネタが出てこず、これはいっそのこと夏休みにするか、それとも香港グルメレポートにするか(先週お休みで香港に飯食いに行ってました)と思っていたところ、そういえばゴールドの需給は今年に入って書いてるかしらとちょっとさかのぼってみると、5月にGFMSが最新のゴールドサーベイを発表しているのにもかかわらず、ゴールドの最新の需給をまだ書いていませんでした。ということで今週からはゴールドの需給に決定。

「ゴールドの供給」


「鉱山生産」

(2012年各国のゴールド生産量)



(世界のゴールド生産国Top20)



 まずはもっとも重要な供給項目である鉱山生産を見てみましょう。新産金と呼ばれる鉱山から掘り出されるゴールドは過去10年間おおよそ2400トンから2800トン後半です。2012年の2861トンは歴史上最大の年間産出量になります。この増加にもっとも寄与した地域はアジアとCISです。具体的には中国とロシア。アジアではインドネシアが大きくその生産量を減らしているだけに、余計に中国の増産傾向が目立ちます。中国は2006年にオーストラリアを初めて若干逆転(当時は247トン)し、世界一のゴールド生産国となり、それ以降は中国一国だけその生産量は伸び続けています。世界第二位のオーストラリアは過去10年間毎年250トン前後でほぼ横ばいであるのに対し、中国は2009年には300トンを越え、2010年には350トン、2011年には370トン、そして2012年には413トンと、とどまるところを知りません。今では2位のオーストラリアを160トン以上上回る圧倒的な生産高となっています。中国のおどろくべきところは、世界一のゴールド生産国であるだけでなく、インドと並ぶ世界1,2位を争うゴールド需要国でもあるところです。現在のゴールドの現物市場は中国を中心にまわっているといっても大げさではないでしょう。



 そしてその中国と対照的なのは南アです。ゴールドといえば南アフリカというイメージが日本人には強いのですが、現在、ゴールドの生産国の中でお南アは6位。2012年は200トンを大きく割り込み177トンとなりました。その生産量の落ち込みがまさに中国と対照的です。1960年代や70年代には南ア一国で1000トンを超えるゴールドを掘っていた年もあり、当時は現在の中国を遥かにしのぐ、まさにガリバー的存在でした。そういった意味では日本人がもっている南アに対するイメージは間違っているわけではありません。ただそれはもう30年以上昔の話になってしまいました。現在では毎年その生産量は減少の一途をたどっています。ゴールドの埋蔵量はまだまだあるようですが、経済的に見合う鉱山は数が減っているようです。



 金の鉱山生産の特徴として捕らえるべき一番重要なことは、ゴールドはいろんなところで掘られているということです。Top20の国々をみてもらうと、まさに世界中に広がっているのがよくわかります。たとえば南アで鉱山労働者のストライキが起きたとしても、それによってゴールドが供給不安になることはありません。世界中で掘られることによって供給のリスクはほどよく分散されています。南アとその周辺に80%の生産を頼っているプラチナとは比較になりません。ゴールドの鉱山供給は安定しており、今後も2500-2900トンくらいでの安定した推移となることが予想されます。ゴールドは一度掘り出されるとその大部分はそのままの形で地上に存在することになります。8割が投資や宝飾の需要であり、磨耗してなくなることはなく、残り20%の産業用需要でさえ、そのほとんどがリサイクルされて再使用されます。自然界に存在する何ものにも反応しないその安定性がゆえ、何千年にもわたってゴールドは存在しています。ということは地上に存在するゴールドは基本的に増え続けています。ゴールドが枯渇してそのうちなくなるから、ゴールドを今のうちに買っておこうということをいう人がいますが、それは的外れな議論ですね。

以上。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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