ゴールドコラム & 特集

ゴールドの需給 その2

「スクラップからの供給」



ゴールドの供給の64%が鉱山生産で新しく掘り出されるもの。残りの36%、約1600トンがいわゆるスクラップの回収です。前回も書いたとおり、ゴールドは化学的に非常に安定した物質であるためにほとんどのものが回収されて再利用されます。当然のことながら、価格が上がればスクラップの回収も増える傾向にありますが、2009年頃からは1600トン近辺で頭打ちの状態が続いています。

(2012年各国のゴールド生産量)



「ゴールドの需要」

次はゴールドの需要です。




「ゴールドの需要の特徴」

ゴールドの需要の42%、1893トンを宝飾が占めます。これに公的機関(中央銀行)の買い入れ(12%、532トン)そして現物投資(22%、998トン)をあわせると需要全体の76%にもなります。ゴールドの需要の大部分はゴールドをゴールドのままで使う需要であることがわかります。これは需要の8割が加工されるPGM(プラチナ&パラジウム)やシルバーとはまったく逆の需要構造にあります。つまり工業用メタルとされるPGMやシルバーは、「なければ困る需要」のほうが多く、逆のゴールドは投資や宝飾といった「なくてもとりあえず困らない需要」が多いという特徴があるのです。

 このことは価格の動きの要因にもかかわってきます。たとえばプラチナの需要の約6割が自動車の排ガス触媒に用いられています。これは自動車の生産には必ず必要なもので、これがないと自動車を販売することはできません。ということは、この分野の需要は自動車の売り上げにかかわってくるということになり、ひいては景気動向に大きく左右されることになります。そのため不景気になると需要がへり、PGMとシルバーのような産業用メタルにとっては大きな影響があります。一方、ゴールドにとっては宝飾の売れ行きと投資需要がどうなるかが一番大事なポイントとなり、特に不景気時には、株価が低迷し、株や債券などの一般の投資対象から資金が離脱、投資化の不安心理を背景にゴールドに投資資金が入って来やすくなります。

 それが極端な形で起こったのが2011年9月にゴールドが1920ドルの歴史的高値をつけたときです。このときは投資資金が一挙にゴールドに流入しそれから2012年いっぱい、2013年になり金融緩和の終了に関してFRBの議題に上ってくるまで、ゴールドはプラチナよりも高い状態が続きました。(下チャート参照)2013年になり、金融緩和終了の議論が始まると同時にゴールドの入っていた投資資金が一挙にゴールドから離脱したため、再びプラチナの価格がゴールドを上回るようになっています。

(プラチナ-ゴールド・スプレッド)



「宝飾需要」

ゴールドの需要の最大の分野が宝飾需要です。世界の宝飾需要を語る上でもっとも大切な国はやはり中国とインドです。中国は過去10年連続でその宝飾の需要が増え続けています。2012年には宝飾需要は500トンを超えるまで増加してきています。一方、インドではここ数年のドル建てゴールドの高騰に加えルピー安の影響もあり、ルピー建てゴールドの価格が大きく上げたことから、宝飾加工需要は2012年は285トンと前年比11%g減、過去3年間では最低の数字となっています。しかし、中国の伸びがそれをカバーする勢いで伸びてきており、今度も需要全体でみれば1500-2000トンのレベルは維持されると思われます。




「加工用需要」

(世界のゴールド生産国Top20)

ゴールドの加工用需要はPGMやシルバーと比べると量的に限られたものです。最大のものは電子材(Electronics)での使用。世界経済危機により消費が抑えられ、この分野は2011年の311トンから2012年には285トンと大幅にその需要が抑えられました。最大の商品であるGold Bonding Wire (金線)は、ゴールドの価格高騰のため、パラジウムでコーティングした銅線などへの代替の動きが急速に進み、Bonding wireの25%がゴールドを使わないもの代替されています。そのためこの分野でのゴールドの需要も大きく落ちこんでおり、大手であった日本のメーカーの撤退もここ数年目だっています。

 歯科材もゴールドの産業用需要の一部ですが、この分野もゴールド高騰のために代替がすすんでいます。メインに使われるのはゴールドとパラジウムの合金ですが、最近ではセラミックスのような非メタルの素材が増えてきています。この分野のゴールドの需要は2011年は43トン、2012年には39トンに減少しています。

「その他の需要」

その他金貨とメダルがあわせて年間300トンの需要があり、2012年まではゴールドETFの需要も280トンありました。しかしこれは逆に2013年は8月までで600トン以上の売りで供給サイドに入ってくるはずです。

「まとめ」

・ゴールドの鉱山生産は世界各地でほぼ均等に生産されるため、非常に安定している。年間合計2800トン(8割近くを南アとその周辺地域で占めるプラチナと対照的)。
・スクラップからの供給は1600トン。来年はそれに加えてETFの売りが入ってくるはず。
・その物質的安定性ゆえに一度掘り出されたゴールドは永遠に地上に存在する。地上に存在するゴールドは基本的に増える一方である。
・中央銀行は2010年から新興国が需要(買い手)に。年間500トン程度。
・世界一のゴールド生産国は中国(年間400トン)。またインドと世界一を争うゴールドの輸入国。
・需要の8割が宝飾・投資用といったゴールドそのままの形での需要。不要不急の需要であり、ゴールドが材料として必要とされる加工用需要は約2割程度。

以上。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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