変りつつあるゴールドマーケットの空気
(Gold 5 year)
ゴールドのマーケットの雰囲気が少しづつ変化してきました。6月30日にニューヨークで一瞬つけた1180ドルというのがやはり底値になりました。この日はその日のうちに1200ドルを回復、翌7月1日は1240ドルまで急騰しました。やはり1200ドル割れは非常に大きな買いがあるということがここで証明され、まだ弱気が一般に多い中、この日を境にゴールドはじわりじわり上昇を続けています。8月第二週には1380ドルを越え。ほぼ6月の急落以前のレベルに戻してきました。今回の安値1180ドルから約1ヶ月半で200ドル上昇したことになります。今年年初からの動きを考えると1700ドルから1200ドル割れまで500ドル下落して、そのうちほぼ200ドルを戻したことになります。この上昇の背景を考えてみましょう。
1.過去に例がないほどの実需の現物買い
先週World Gold Councilが発表した「Gold Demand Trend Q2 2013」によると
- 2013年Q2宝飾需要は37%アップして576トン。2008年のQ3以来のもっとも高いレベル。
- 中国では昨年同期比54%の需要増加。インドは51%増加。
- 中東の需要は33%増加。トルコは38%増加。
- 地金&コインへの投資は世界で昨年同期比78%の増加し、四半期として始めて500トンを越えた。
- 中国では地金&コインの昨年同期比は157%の急増。インドは116%増で122トン。
- 宝飾と地金&コイン需要を合わせると、2013Q2の消費需要は1083トンとなり、昨年よりも53%増えている。
また、Comexの倉券在庫も大きく減っており、ゴールドの現物のいらない場所(ニューヨーク)から、現物が必要とされている場所(インド、中国、中東)へのゴールド在庫の移動が明らかである。アジアの現物のLoco Londonに対するプレミアムの上昇はその現物需要の強さを示しており、急落した4月以降、香港では5-6ドル、中国のSGE(Shanghai Gold Exchange)では10ドルから40ドル、インドでも30ドル以上のプレミアムとなっている。これだけ長い期間、これだけ大きなプレミアムが継続した(そして今もしている)ことは過去に例をみない。
2013年前半のロンドンからチューリッヒへのゴールド輸出が2012年通年の8倍に膨らんでいる。ゴールドETFからの売却で出てきたラージバーをスイスの精錬所でキロバーに加工、アジアへ輸出されているものと思われる。 過去に例をみない。
2.膨らみすぎたコメックスの投資家ショートポジション
コメックスの投資家のグロスショートポジションは7月第一週に423トンという過去最大のショートを記録。ネットポジションでも過去10年では最小のポジションである100トンを割り込んでいた。そのショートカバーが入ってきており、ネットで98トンのロングであった最低ポジションが8月半ばには279トンロングまで膨らんできている。この大部分はショートカバーであり、423トンあったショートが247トンまで減少している。
3.5/22のBernanke発言でのQE3縮小が5月からの下げでほぼマーケットに折込済みになったこと。9月のFOMCにおいての債券買取縮小はほぼ既定路線、もしそうでなかった場合は上波乱がありえよう。
4.Gold ETFの売りの勢いが衰えてきて、8月第二週は昨年12月以来初めての純増となったこと。まだ小さな動きであるが、象徴的。先週発表された13FではSPDR Gold ETF最大のロングであるPaulson Fundがその53%を売ったこと、そしてSoros Fundはすべて売り払ったことがわかったが、これは逆に悪材料出尽くし感をマーケットに与えている。
5.ゴールドの生産コストの問題。プラチナと違いゴールドの生産コストは一概には表現できないが、上がってきていることは事実。GFMSのGold Survey2013によれば世界のゴールドの生産コストは1211ドルとなっており、7月頭の安値1180ドルはそれを一瞬割り込んだことになる。さすがにそこでは一瞬で大きく買い戻しが入っている。1200ドルは長期的にみてもマーケットのフロアになる可能性がたかい。
過去例をみない強烈な実需の買い、行き過ぎたファンドショートのカバー、ETFの売りの減少、そして生産コストの問題、これらの材料から現在ゴールドは年初来の下げを巻き戻しつつあります。あとはやはり9月のFOMCに対してのファンド筋の反応がどうなるか、が最大の焦点でしょう。個人的にはもはや織り込み済みだと思いますが、どうなりますか。
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