GFMSのゴールド相場見通し
9月5日にトムソンロイター社で貴金属セミナーがあり、GFMSのアナリストと私がスピーカーでした。僕のスピーチはさておき、GFMSのアナリストの相場の見方は参考になると思うので、今週はそれを紹介しておきたいと思います。プラス要因・マイナス要因とも現在のゴールドマーケットの要因を簡潔にまとめていると思います。
ちょっと話ははずれますが、このGFMS、数年前にトムソンロイターズ社に売却され、現在はロイタートンプソン社の一部となっています。しかしロイターに移ってからしばらくして元GFMSパートナーの1人Paul Walker氏が退職。それからしばらくしてもう1人のパートナーであったPhilip Klapwijk氏も退職。そして次々と退職者が増え、独立するもの、そして新たな会社、Metal Focus社を起こした人々とまさに空中分割状態です。そもそもが個人企業的な色合いが濃かったGFMSなので、やはりトンプソンロイターのような大企業に一部になってしまい、いろいろとそれまでの「自由」が制限されてしまったと感じたのかもしれませんね。肝心のパートナーの2人が抜けてしまったということからも、もはやPaulとPhilip の時代の小回りのきいた個人企業ではないということなんでしょう。GFMSがロイターの一部になって、今後のGold Survey/ Silver Survey/ PGM SurveyといったGFMSが毎年出していた需給レポートは今後どうなるのでしょうか。ロイター社のEikonというサービスに中にGFMSのページがあり、このサービスを取っている人しか閲覧できないということになると、これはこれで結構な物議をかもし出しそうな気がします。今回「Gold Survey 2013 Update」が発表されましたが、これは今までどおり、希望者はPDFをダウンロードできるようです。貴金属の世界ではもっとも受け入れられている需給レポートであるだけに、今後のロイタートンプソンGFMSがどうやっていくのか注目されます。
「2013年?2014年 金価格見通し」
このレポートはそもそもが需給がどうなるかというものですが、今週は彼らが現在の相場をどう見ているのかということに集中したいと思います。以下はその要旨です。
(まとめと相場見通し)
・変る投資の主体
2013年の最初の8ヶ月はゴールドマーケットに大きなリバランシング(rebalancing)、つまりマーケットの構成要素が大きく変りました。プロの投資家がゴールドマーケットから離脱し、それに対して草の根とも呼べる一般投資家のゴールドへの投資が爆発的に伸びました。年初の最高残高から8月初旬までの間にゴールドETFは26%も減少、そして短期的な投資資金のマーケットから流出と相まって、1月の高値1696ドルから6月末の安値1181ドルまで30%もの価格の下げとなりました。この価格下落は地金とコインの現物需要を大きく飛躍させ、宝飾においても10年以上続いたゴールドの代替メタルを駆逐することになりました。
・ゴールド需要
2013年の前半は550トン以上も宝飾品、投資用地金コイン、メダルの需要が増加し、この現物需要が、価格下落を反転させ、8月末には1440ドルまでゴールドは戻りました。需要の盛り上がりは中東、南アジア、東アジアと広がり、インドではゴールドの輸入が貿易赤字の原因と目されるようになりました。また今年は近代では初めて、中国がインドを100トン以上もの差をつけてゴールド消費国世界一となりそうです。
・ゴールド供給
2013年前半の鉱山生産は3%増加して1416トン。価格下落のためにメインテナンス等の理由で生産を中止している鉱山はまだそれほど多くない。しかし鉱山開発予算の削減やプロジェクトの遅延などが実際に起きているとのこと。
・金融政策の影響
ゴールド価格の動きは金融政策、特に米国のそれに大きな影響を受けています。金融緩和のテーパーリングはプロの投資家の間ではほぼ織り込まれ、現在は個人投資家買いが中心のマーケットに。現物需要とプロ投資家の売りのバランスが微妙に相場のレベルを支えており、それが新たな価格の安定性をもたらし、長期投資家のポートフォリオのバランサーとしてのゴールドが受け入れられる可能性があるでしょう。
・相場見通し
2013年残りの期間はじわじわ上昇し、2014年前半には1500ドルを予想。その後はゆるやかな下落基調。2013年の第二四半期の下落は、弱いロングをふるい落としたが、それでも1400ドル以上のレベルでは、ゴールド価格を維持もしくは上昇させるために十分な投資家層が大量のゴールドを買うことができるかどうか、まだ疑問符が残る状態であると思われる。
1.プラス要因
・新興国における宝飾品需要の顕著な回復
・スクラップを中心い供給量が収縮
・産金各社やその投資家よる安置。ヘッジ志向の高まり続く
・中央銀行による購入が引き続き高水準
・供給超過の情況が大幅に解消、マーケットの不透明感払拭
・欧米の経済、財政状況に不透明感残り、金融引き締めペースは緩慢に
2.マイナス要因
・ドル高、景気回復見通し、株式など伝統的金融資産のリターン回復等、金への逆風が強まる可能性
・まだ高水準にある投資家のロングのため、そのロング解消売りの潜在的リスク
・心理的抵抗線割れに伴うパニック売りの脅威
・宝飾品に対する需要は根強いが、消費者の価格変動慣れで購買意欲はクール
・金価格の低下傾向が長引くと押し目買いの動きにもブレーキが
・政府の政策によりインドの実需(特に金地金)が抑制
・潜在的な需給の改善はすすむと見られるものの、なお供給超過が続き、金価格は引き続き投資家の動向に左右
3.GFMS 2013-2014年金価格見通し
・現在の大幅な売り越しポジションから2013年下半期にかけてショートカバーによる戻り相場見通し
・米FRBによるQE3緩和はほぼ価格には織り込み済み
・すでに長期弱気相場に入っており、2014年予想トレーディングレンジは1100-1450ドル
以上。
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★池水氏によるブルースレポート
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