ゴールドコラム & 特集

アメリカの米財政協議を巡る不安とゴールドのファンダメンタル

今週は最近のゴールドの相場に関して書いてみましょう。いろんなことが起こって、かえってわかりにくくなっている今、道に迷いそうなときは、やはりもっともベーシックなファンダメンタルを見てみるのが一番いいのではないかと思います。



「FOMC & Tapering」

 9月のFOMCで債券買取の縮小がとりあえず見送られ、それまで弱気一辺倒でショートに投資家多かったゴールドは一時80ドルという大きな上げを演じました。もちろんこれはショートカバー以外の何ものでもなく、その後またすぐ上げた分をほとんど下げてしまいましたが。Taperingのタイミングに関してはまだいつ開始されてもおかしくないという見方の筋も多く、一方的なゴールドの上昇にはつながっていません。個人的には現在の米国の雇用の情勢を見る限り、まだTaperingには早いのではないかと思います。今後の雇用統計により発表される数字が大きく劇的に改善されれば話は別ですが、このペースだと早くても12月だと思います。そして何よりもTaperingは5月22日のバーナンキ議長の初めての言及以来の下げでもはやマーケットには十分に織り込み済みだと考えます。これがこれ以上の大きな下げ(5月22日以降の下げは1400ドルから一時1200ドル割れまでありました)を誘発するとは思えません。

「アメリカの予算協議と財政問題」

 それよりも現在の注目点は俄然、財政協議に移っています。10月1日から新しいFiscal yearが始まりますが、これまでに与野党が暫定的であっても予算案の合意に至らなければ、10月1日から実質的に一部の政府機関は閉鎖されることが非常に現実味を帯びてきました。もしそうなれば、1996年以来17年ぶりの一部閉鎖となります。この閉鎖回避の期限が30日深夜(日本時間の10月1日昼過ぎ)です。(そしてその時間になっても結局与野党の歩み寄りはなく、一部政府機関の閉鎖は決定的になりました。ドルが若干売られてゴールドも少しだけ上がったのですが、大きな反応はとりあえず発表直後はありませんでした。)この影響はおそらく実際に米国での人々の生活に支障が出始めるとじわじわくるのではないでしょうか。株が売られ、ドルが売られ、その反動でゴールドが買われてもおかしくないと思います。

 また10月17日には16.7兆ドルの債務上限に到達する見込みです。こちらの問題のほうがより深刻です。今年5月にいったん債務上限に達したのですが、デフォルトを回避するために様々な緊急措置を発動して資金をやりくりしていましたが、先日ルー米財務長官は10月17日までには緊急の借り入れ手段が尽き、手元資金残高がほとんどなくなると警告しました。2011年にも債務上限引き上げをめぐる与野党の対立で政府が債務不履行寸前に追い込まれたことがありました。そのときはS&Pが米国債を格下げし、金融市場は動揺、ゴールドが大きく買われて歴史的高値をつけたのは記憶にまだ新しいですね。この問題はあとほんの1-2週間しか時間の猶予がありません。もし本当にアメリカ政府がデフォルトということになるとやはりゴールドは買われるということにならざるを得ないと思いますが、最終的にはなんらかの解決がなされ、それと同時にこの材料によるゴールドの上昇には一区切りつくと思いますが。

「長期的なゴールドのファンダメンタル」

 それよりも長期的な需給、いわゆるゴールドのファンダメンタルを今一度見直してみましょう。1995年には新しく発見されたゴールドは5000トンあったものが、2011年にはわずか150トンに大幅に減少しています。つまり新しい鉱脈の発見は加速度的に減っているということ。そして下のチャートは毎年のゴールド生産高と需要の差を表したものです。このチャートではdeficitとしていますが、この分は二次的供給、つまりスクラップによってまかなわれています。しかしながら新たに生産されるゴールドよりも圧倒的に需要のほうが多いというのは将来的な需給がタイトになると考えられなくもありません。スクラップの売りが減少すればゴールドは簡単に需給逼迫になるのは明らかです。月間のゴールド生産量は現在世界で200トン程度ですが、中国だけでも7月には117トン買っています。今年の中国の輸入量はまず確実に1000トンを越えるでしょう。(二番目のチャート)


(ゴールドの鉱山生産と需要のギャップ)


(中国のゴールド輸入の伸び:2001年からの月別&累計)


 インドの輸入は政府の規制によって抑えられていますが、彼らの金選好は文化の根底にあるものであり、その買いが減るものではありません。政府はその政策を遅かれ早かれ是正する必要があるでしょう。そしてそれまでの間は非オフィシャルなルート、つまり密輸で相当量のゴールドがインドに入っていくと思われます。(インドに関しては近いうちに掘り下げて書いてみたいと思います。)

 ゴールドの生産コストがもはや現在の相場に近くなっているのも見逃せません。



GFMSのデータによれば世界のゴールド生産コスト平均は2012年で1211ドル。2013年はおそらく1300ドルを超えているものと思われます。これは一番基本的なところで長期的に相場の下支えになると思います。

以上。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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