ゴールドコラム & 特集

スタンダードバンク四半期レポート3・PGM

今回はPGMです。



PGMへの見方は変わっていません。短期的見地からはプラチナ、パラジウム、ロジウムとも上値の重たい展開となるでしょう。2013年第4四半期はあまり動きのない、つまり大きな上昇も下落もない相場展開を予想します。ただし長期的見方とくに2015年にかけては、PGMのこの3メタルとも上昇を予想しています。プラチナのこの四半期の平均価格予想は1450ドル、パラジウムは725ドル、ロジウムは1000ドルです。

「PGMのバランスシート」

前期からPGMの需給に関してはその予想はほとんど変らず。プラチナに関しては南ア鉱山の供給を若干の下方修正。需要の見込みは変化なし。しかし過去数ヶ月のETFの伸びを勘案しました。主に供給サイドの修正のため、3メタルとも供給不足の幅が増えました。プラチナは2013年は前期での予想の約14トンに比べて、新しい予想は約18トンの供給不足になりました。2014年は前回の予想が17.4トンであったことに比べて、19.3トンの供給不足の予想になりました。



パラジウムは2013年は前回予想と変らず39トンの供給不足、しかし2014年は若干供給不足が増加して56トンから62.3トンへ増加しました。



「マーケットはそれでも十分な供給」

2013年とそれ以降の本来ならば強気要因である供給不足予想ですが、価格の相場予想は控えめなものになっています。今年5月からのETFの急増(21トン!)にもかかわらず、プラチナの価格がほとんど変らないことは、スポットマーケットに十分な供給があることを示しています。



そしてプラチナもパラジウムもそのリースレートはほぼゼロに近いレベルにあります。プラチナもパラジウムも地上在庫のレベルは高く、それが相場の上値を抑えると思われます。



要するに相場の動きを見ていると大量の地上在庫の存在があることを暗示しており、実際の在庫の状態に関して焦点を当てると、現在の価格は鉱山の生産コストを割り込むことがしばしばあることの理由となっていることがわかります。我々の調査によれば、プラチナの地上在庫は1046日の消費分、パラジウムは879日の消費分がまかなえる量があるとみています。これはおそらくマーケットの一般的な考えよりもより大きな数字であると思います。

 アメリカは1990年代初頭からプラチナ、パラジウムの大変大きな在庫を積み上げてきています。一方日本とスイスは在庫をなくしている状態。英国はロコ・チューリッヒからロコ・ロンドンへのメタルの移動のために現在はある程度の在庫があります。また中国は韓国のようなほかの国々も比較的大きなプラチナ地上在庫を保持していると考えられます。これらの在庫の大部分はほぼ固定的に保有されており、もしこの在庫が十分に使われてしまうと、相場は上昇するでしょう。ただしそうなるまでの時間は相当長い間かかると考えられます。




「プラチナ ? 自動車触媒需要は若干の増加」

プラチナの2013年の需要は比較的にしっかりで、投資需要を抜いて考えても昨年比3%の伸びを見込んでいます。欧州の自動車触媒需要は2013年はやはりぱっとせず昨年比-1%、しかし2014年はある程度の改善を見込みます。宝飾需要は堅調で昨年比5%の伸びを予想。

「パラジウム ? 自動車触媒需要は堅調」

パラジウムに関する限り、もっとも重要な要因はやはりガソリンエンジンで使われる触媒です。世界の自動車販売予想に基づいて考えると、やはりガソリン車への集中が高い現状は、中国でのガソリン車の売れ行き、米国の復活、そして主な新興国の成長がガソリン車でのパラジウム触媒の伸びを加速させる可能性が高いと予想します。2013年の自動車販売は8290万台に増加が予想されています。中国が15%伸びて1890万台、米国は5%増加の1060万台。2013年のガソリン車のシェアは78%というのも重要です。そのためパラジウムの2013年自動車触媒需要は8%増加して約165トン、総需要は約240トンでまた過去最高を記録する見込みです。

「中国のプラチナ需要は価格次第 ? 現在は上値を抑える」

中国はプラチナ宝飾マーケットでは世界の需要の70%を占める圧倒的な存在です。そしてこの宝飾需要はプラチナ需要全体の30%を占めます。直近の中国のプラチナ輸入統計によると8月にはプラチナの輸入は前月比17.5%減少の7.4トン、7月は6.6%減少の9トンでした。7月の平均価格が1405ドル、8月は1500ドルと価格が上がるとその輸入量は減少しています。2012年から中国のプラチナ輸入は価格の動きにより敏感になっています。これはおそらく2012年から中国での、プラチナの在庫化がすすんでいるためだと思われます。我々の計算によれば中国は2008年から71トンのプラチナを在庫していると考えられます。



「中国のパラジウム輸入は鈍化しているが」

中国のパラジウム輸入は自動車生産が増加しているのにもかかわらず減少しています。中国はパラジウムを取得する方法は三つだけです。輸入、リサイクル、そして在庫。輸入が減少しているということは、在庫がとりあえず十分存在するか、もしくはリサイクルが我々の考えているより多いということになります。どちらにしても2013年は過去数年間よりも輸入量が少なく、生産されている自動車の台数に比較してパラジウムの使用量が減っているといえます。




「ロジウムは供給過剰」

ロジウムは比較的に強気のファンダメンタルで2014年以降の供給不足を予想していますが、永続的に価格の上昇になるかと考えるとそれはまだ懐疑的。過去10年におけるロジウム価格の大きな変動と直近では供給が豊富で、相場上昇時には売られ、短期的には継続的に価格上昇という相場にはなりにくいと考えます。基本的にプラチナ動きに呼応し、狭いレンジでの値動きが続きそうです。





以上。

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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