ゴールドコラム & 特集

中国のプラチナ・パラジウム輸入とマーケット

中国のゴールドの買いが昨年のゴールドマーケットでは大きな注目の的でしたが、実は中国が買っているのはゴールドだけではありません。プラチナも世界一の買い手として、その影響力は非常に大きくなってきています。今週は中国のプラチナ相場への影響と昨今のプラチナ・パラジウムを巡るマーケット状況を考えてみたいと思います。

(プラチナ価格チャート:1年)



「史上最大となった2013年中国のプラチナ輸入」

 中国の2013年12月のプラチナとパラジウムの輸入数量が先週発表されました。プラチナの輸入量は約11.5トン、11月の8トンから大きく増加。やはり価格の下落に敏感に反応しているのがわかります。12月の平均価格は1356ドルで、11月の平均価格1417ドルを大きく下回ったのです。そしてそれよりも印象的だったのは、2013年の年間プラチナ輸入量です。2013年の年間プラチナ輸入量は約95トンと前年の約81トンを大きく上回りました。プラチナの世界年間鉱山生産量が200トンというところなので、昨年中国はその半分を輸入したことになります。この輸入量の伸びの最大の理由は価格の下落にあると言えるでしょう。

 下のチャートは中国のプラチナ輸入量と価格の関係ですが、まさにきれいな逆相関、つまり価格が上がると輸入が減り、価格下がると輸入が増えるという関係になっています。これはゴールドにも言えることですが、中国の買いはいわば下値を支える役割を果たしています。価格が下がれば需要が大きくなり、価格が急激に上がるとその買いは、ぱったりとなくなります。下値は支えても上値を押し上げていくような需要ではありません。ちなみに中国のプラチナ需要はほぼ100%宝飾需要です。中国のプラチナ宝飾マーケットは全世界の80%を占め、宝飾需要は全プラチナ需要の中の30%を占めます。中国の需要が価格に敏感であることの一つの理由は、その需要が自動車触媒などの必ず必要な産業用需要ではなく、宝飾用と不要不急な需要であるということです。そしてそれが故に、短期的にはプラチナ価格は1500ドルを越えて上昇していくのは難しいと感じます。

(中国のプラチナ輸入とプラチナ価格)



「それでも上がらなかったプラチナ」

 中国のプラチナ買いに加えて、昨年は南アのプラチナETFが始まりその残高が急激に伸びた年でもありました(下のチャート)。この2つの買いを合わせると2013年は約124トンものプラチナがその所有者が変わったことになります。それでも価格が下がり、2013年はプラチナが供給不足であったことを考えると、多くの現物供給が、地上在庫から出てきたものと考えざるを得ません。価格が下がっているのに地上在庫の供給として現れてくるということは、それほど短期的なポジションなのでしょうか。今後の問題は現在大きくその残高を伸ばしているETFと現物として中国に輸入されたプラチナはどれほど「長期的に」保有されるものなのか、ということでしょう。

(プラチナETF残高とプラチナ価格)



「南アランドの動き」

 南アのランド安が続いており、対ドルで11ドルを越えています。ランド建てのプラチナは2008年のプラチナ急騰時以来の高値になっています。これは南アの生産者にとっては、とありあえず、一息つけることであり、現地通貨での上昇はドル建てのプラチナにとってはマイナス要因になります。このところ急激に増加してきているランド建てのプラチナETFの動きにも大きな影響があるかもしれません。南アの鉱山ストライクを材料に昨年の12月にはじまり1350ドルから1460ドルまで買われましたが、実際のストライキが起きたことにより利食い売りに見舞われ、現在1420ドルまで売られています。今後の動向はストライキが長引いて、実際の需給に影響を及ぼすか、という点が重要になってきそうです。そしてランドの動き。ドル建てで1400ドルとみているプラチナの生産コストも、ランドが安くなればなるほど下がるということになります。

(南アランド過去10年の動き)



(ドル建てプラチナ(赤)とランド建てプラチナ(黒)の過去5年の動き)



「パラジウム」

 パラジウムの輸入に関しては、12月には2.2トンの輸入となり11月の2.5トンから若干の減少。2013年を通した輸入量は22トンで、2012年の20トンから約10%の増加。2013年の年間のパラジウム輸入量は22.3トンで前年の21トンを少し上回りましたが2011年の30.4トン、2010年の29.4トンには遠く及ばない数字です。(Figure 7)パラジウムの輸入量の減少は、中国の自動車生産量の増加に逆行する動きです。自動車生産量は2010年の1800万台から2013年には2200万台に増加しています。(Figure 8)この矛盾は、一般に言われているような在庫からの供給というよりはリサイクルの増加と、おそらくは輸入の過少申告が原因であるのではないかと思います。



 パラジウムの値動きはまったく他の貴金属と関係していないようです。価格的にはもっとも安定しているように思えます。

(ドル建てパラジウム1年の動き)



以上

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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