ゴールドコラム & 特集

南ア・プラチナ鉱山会社でのストライキでなぜ相場が上がらないのか?

(プラチナ一年の動き)



 1月30日からAMCU(Association of Mineworkers and Construction Union)は世界3大のプラチナ鉱山会社であるAnglo American Platinum、Impala そしてLonminに対してストライキに突入しました。AMCUはそもそもは1998年にNUM(National Union of Mineworkers)の分派から独立し、2001年に正式に登録された労働組合で、NUMがどちらかといえばゴールド鉱山中心で歴史ある穏健的な労働者組合だとすれば、AMCUは先鋭化された、より過激な労働組合であり、PGM鉱山での労働者が多い組合で、2012年にLonminのMarikanaで行われたストライキではNUMとの衝突と警察との衝突で44名もの人々が命を失うことになり、AMCUのイメージを大きく世界に印象付けました。そのAMCUが今回のストライキを起こしたのですが、現在Lonminの労働者の70%がAMCUに所属しており、NUM所属は20%に過ぎません。またImpalaでもAmplatsでも過半数はAMCUが占めており、そのメンバーの総数は5万人を越えています。

 大規模なストライキの予定は昨年12月から流れていました。そしてそれに向けてプラチナは12月後半からじわじわと上昇基調となり、12月20日には1330ドル台であったのが、およそ一ヶ月の間に1470ドルまで140ドル上昇、率にするとほぼ10%の上げとなりました。しかしその後、実際にストライキが不可避になると1月の後半から一転してプラチナは下げ始め、2月初旬現在、1400ドルを割り込んで一時1360ドル台まで大きく下げました。まさに「buy the rumor, sell the fact」噂で買って事実で売る、を地で行った展開です。

(プラチナ一ヶ月の動き)



 南アの鉱山会社が生産するプラチナは2012年で約110トンあり、これは世界の鉱山生産の約60%を占めます。そのほとんどの生産を行う上記の大手3社のストライキで生産活動は深刻に阻害されるはずです。それなのに実際にストライキが開始されてどうしてプラチナは上昇しない、いえ、これまで上昇した分をそのまま下げてしまうのでしょうか?

 その原因はいくつも考えられますが、まず最大の要因はやはり相当な「地上在庫の存在」にあります。まずNymexの倉荷在庫が一年前よりも20%も増えており、過去10年でも最高の7.7トンもあります。また鉱山会社も昨年9月までに6トン以上の在庫を積みましています。そして4月に上場された南アのプラチナETFはもはや約24トンもの現物在庫を抱えています。Standard Bankのアナリストの見方では昨年末の時点でプラチナの地上在庫は1000日以上分もあるとのことです。またスクラップからの二次供給も、今年は13%増え、40トンと予想されています。現在、大手三社のストライキによる生産ロスは一日に付きプラチナ約310kg、パラジウム約150kgといわれています。地上在庫の量を考えると、取るに足らない量と言えるでしょう。

 また過去2年間、LonminのMarikanaスト以来、大手三社はストや労働不安によって合計27.4トンもの生産を失っていますが、この供給不安にもかかわらず、プラチナの価格は目だって動いていません。やはりこれも地上在庫が大量にあることの現れでしょう。ストライキが相当長く続かないと実際の需給に目に見える影響は与えないのだろうと思います。

 そしてもう一つ外部環境として南ア・ランド安の動きがあります。ランドはドルに対して2009年以来の史上最安値に近づく動きをしています。折からの新興国売りの流れにも押されて、ランドは下がり、ランド建てのプラチナも史上最高値に近いところであり、これが南アからのプラチナの売りを促進、ドル建てのプラチナの頭を抑えています。またプラチナの生産コストもランド安によって、ドル建て換算では安くなると考えられます。

(ランドの動き)



(ドル建てとランド建てプラチナの動き)



 現在の環境ではストライキが大きく長引かない限り、プラチナの価格が1500ドルを超えるのは難しいと思います。しかし供給不足の状況はストにかかわらず存在し、長期的に考えると、地上在庫が掃けたあとは必ず相場に影響を与えてくるものと考えます。そのため1年以上の長期で考えるとプラチナは上昇基調にあると考えます。1400ドルを割り込むレベルは長期的に拾っておいていいレベルであると考えます。

 現在の環境ではストライキが大きく長引かない限り、プラチナの価格が1500ドルを超えるのは難しいと思います。しかし供給不足の状況はストにかかわらず存在し、長期的に考えると、地上在庫が掃けたあとは必ず相場に影響を与えてくるものと考えます。そのため1年以上の長期で考えるとプラチナは上昇基調にあると考えます。1400ドルを割り込むレベルは長期的に拾っておいていいレベルであると考えます。 以上

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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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