ゴールドディーリングのすべて2から続く連載再開のお知らせ
皆様お待たせしました。といっても約2週間でしたが、7年間続いたOvalnext社のサイトでの「ゴールドディーリングのすべて2」の連載が終わり、今週からは岡藤商事のご好意でここでまた連載を始めることとなりました。名づけて「ゴールドディーリングのすべて3」。(ってそのままやんけ!)突っ込みありがとうございます。「ゴールドディーリングのすべて2」バックナンバーがそのままオーバルネクストのサイト(http://www.ovalnext.co.jp/ikemizu )でそのまま閲覧できる形ですので、継続性も考え、3になりました。
そもそもこの連載は、特にテーマは決めずにその時々の貴金属マーケットでの話題、材料、注目点など、硬いものから柔らかいものまで取り上げた小文を書いていきたいと思っていますのでどうぞよろしくお願いします。ちなみに1はどこにあるんだ?という疑問が湧くかもしれませんが、1は「ゴールドディーリングのすべて」という1993年の本にまとめてあります。残念ながらこの本はもはや幻の迷著となっており、現在はおそらく手に入れることはできません。たださすがに内容的にはもう古いので2と3を読んでいただければ、ついでにいうと「The Gold」という本を読んでいただけるとすべて新しい知識としてカバーできます。(宣伝!)
「ゴールド・ディーリングのすべて3 」
さて、記念すべき連載第一回はゴールドではなく、あえておそらく貴金属4品のなかでももっともマイナーな「パラジウム」の話から。ゴールドの話を書く人はそこそこいるけど、パラジウムの話を書く人はそういないでしょう。笑。
「パラジウムの状況」
・ロシアの動向
4月のスイスの税関統計によるとロシアのスイスへのパラジウムの輸出は2013年5月以来の大きな増加となりました。その主な要因はおそらく4月のパラジウム平均価格が797ドルと2011年以来もっとも高い月間平均価格になったことが上げられます。
(パラジウム価格の推移)
2013年5月には、ロシアは約4.7トンのパラジウムスポンジ(粉状のパラジウム、主に工業分野で使われる)をスイスに輸出しましたが、それ以降、輸出量は月当たりわずか150kgから190kgの間でこの4月まで続いていました。(形態は主にインゴット)。そしてこの4月、スイスへの輸出は急増し、2.18トンになりました。このロシアからスイスへの輸出の大部分(約2トン)は、半加工品かスポンジでした。また少し興味深いのですが、今年に入ってからロシアから英国へのパラジウムの輸出が少なくとも3月までは皆無です。近年ロンドンはスイスに次ぐPGM輸出の選択肢となっていただけにちょっと不思議です。
(ロシアのスイスへのパラジウムスポンジの輸出量推移)
ロシアのスイスへのパラジウム輸出を長期的に見てみると、近年のその数量は1990年代後半や2000年代前半と比べると非常に少ないものとなっています。当時は30トンを超えるスポンジが輸出されたというような月もありました。そのため4.7トンという数字も歴史的視野を持って考えるとやはり、小さな数字であり、ロシアのスイスへのパラジウム輸出が減少していくという流れには変化なしと考えます。
これは市場関係者の大方の見方どおり、長年の外貨獲得のための売却でパラジウムのロシアの国家備蓄がほぼ底をつき、現在はスイスを経由することなく、ロシアの生産者(ノリリスク)がパラジウムを生産したそばから、すぐに直接需要家へと送られているようです。実際、現在パラジウムのスポンジはプレミアムとなっています。一時はインゴットに対するプレミアムが20ドルと大きく上昇し、それは6月になってもまだ5ドルから7ドルのプレミアムのままであり、パラジウムスポンジのタイト感を如実にしめしていると言えるでしょう。
この事実は、これから将来の大きな需要不足の予想とあいまってパラジウムの価格動向に大きな影響を与えるものだと考えます。実際、ゴールドをはじめとするほかのメタルが大きく相場を崩すに際しても、パラジウムだけは全く微動だにしないというマーケットになっています。これはもはや具体的に需給のバランスが崩れてきているからだと思われます。リースレートも他のメタルと比べると、大きく上昇しています。パラジウムの世界最大の産出国はロシアであり、ほとんどがノリリスクという世界一のニッケル生産会社がパラジウムとプラチナもロシアのほとんどのすべてを生産しています。彼らの動向が今後のパラジムの価格動向を握っていると言っても過言ではないでしょう。南アのストが収束に向かえば、一時的に下落するとは思いますが、800ドル近辺では拾いたいところだと思っています。(そしてまさにそれが、この原稿を書いた後に起こりました。6/12に鉱山会社による「ストライキ終息へ原則的合意に達した」という発表でパラジウムは865ドルから810ドル前後まで下落しました。)昨年までは750-800ドルが天井だったのが、現在はもはや800ドルに底値感を感じるようになりました。需給を考えるとパラジウムは長期的に価格レベルが上がる可能性が高いと考えます。また今年4月にヨハネスブルグ証券取引所に本格的に上場された南アパラジウムETFは残高を増やし続ける一方です。4月からのたったの2ヵ月足らずで、このETFは22トン近くの残高を増やしました。22トンといえば年間鉱山生産量の約10分の1に当たる数量です。
(パラジウム価格とETFの残高)
現在プラチナとパラジウムの比価は1:1.7。一時プラチナがパラジウムの5.5倍まで広がったことがありましたが、今は1.7倍というところまでパラジウムの価値が上がって(プラチナ価値が下がって?)きました。そもそもの鉱山生産量は年間ほぼ200トンでプラチナもパラジウムも同じ。自動車の触媒用途はパラジウムがガソリン車に主に使われるだけに、ディーゼル車対象のプラチナの触媒需要の46%に対して、パラジウムのそれは67%もあり、欧州以外の自動車触媒需要はほぼパラジウムに集中しており、日米中そしてインド、ブラジル、ロシアなど現在車が売れているところはみんなパラジウムの需要マーケットになるということです。先週中国の新車売り上げ台数が発表されましたが、今年5月までの累計は前年同期比で11%の増加となっています。景気回復が進むと将来的にパラジウムはプラチナとほぼ同価値になってもおかしくないのでは、と僕は思います。そもそもプラチナよりも大きく安い理由がよくわかりません。参考までにパラジウムの需給に加えてプラチナの需給もあげておきます。
(Pt & Pd Ratio、プラチナとパラジウムの比価)
過去数年そして今後もパラジウムの供給不足はほぼ確実という予想がなされてます。これでは上がらないわけがないですね。この原稿を書いている5月12日現在パラジウムは14年ぶりの高値レベルに来ていますが、まだまだこの当たりで止まるという雰囲気ではありません。ただ我々投資家にとっては本当はポジション調整でもなんでもいいから、下げが欲しいところですね。南アのストライキ終結にかけるしかないのでしょうか。
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