スタンダードバンク相場予想 「ゴールド」2014-06-27(第3四半期)
四半期ごとにスタンダードバンクはコモディティーの相場予想を発表していますが、第3四半期の予想が先日発表されたので、今週はそのうちの「ゴールド」の予想を紹介しましょう。
「貴金属の相場予想」
Gold
アジアの需要は未だ弱く、2014年Q3も変化はなし
Q3(第3四半期)に大きくゴールドが上がるのは難しいだろうと考えますが、Q4にはアジアからの需要も持ち直す可能性があります。
アジアのゴールド需要、ここまでは非常に弱かった。
今年のアジアのゴールド需要は貧弱でした。中国の香港経由のゴールド輸入は統計が出ている5月までは強い数字でしたが、6月、7月、8月とその勢いは弱まると予測します。上海黄金交易所(SGE)のプレミアムが4月から下がっており、ほぼゼロに近いところにあるということが、端的に弱い需要を示しています。SGEのプレミアムとゴールド価格の関係をみれば、中国のゴールド需要がここ数ヶ月は価格に大変神経質になっているのがよくわかると思います。SGEのプレミアムがゼロもしくはマイナスであるということはゴールドを輸入する必要性もないということを意味します。
下のFigure3でわかるようにゴールドの価格とSGEのプレミアムには反相関の関係が成り立っています。ゴールドが上昇すると需要が減少、SGEのプレミアムも下がります。そのため中国が昨年のように大量のゴールドの輸入するためにはまずゴールドの価格が下がる必要があると思われます。
それとは対照的にインドのゴールド需要は昨年6月から弱いものになりました。その背景にはゴールドの輸入関税が4%から6%に2013年1月に引き上げ、6月には6%から8%にまで、そして8月にはなんと8%から10%にまで増税されたことがあります。この輸入関税増税のために、ゴールド輸入量の月間平均値は2012年の81トンから2013年の68トンへ大きく減少し、さらに驚くべきは、昨年8月から今年2月までの「公式」なゴールドの輸入は一月あたり24トンにまで落ち込んでいるという事実です(Figure4)。
まだこの輸入関税は緩められていませんが、関税の緩和があればインドのゴールド輸入は大幅に改善する可能性が高く、7月の政府予算の作成と同時に関税の緩和も議論されると見られており、もし緩和されれば一月当たりの輸入量が30-40トン増えると考えられ、ゴールド ETFのさらなる売りの可能性に対して有効な買いとなると思われます。
歴史的な相関関係は有効。
昨年からの大きなETFの売りにもかかわらず、ゴールドと他の金融市場との相関関係は大まかには変化していません。2004年から2012年の間(Gold ETFが急増した期間)を除いて、ゴールドは米国の株価、実質金利そして貿易加重ドル(Trade-weighted dollar)にほぼいつも反相関関係があります。
実質金利が上昇すればゴールドは下落する。
ゴールドETFの売りが今年に入ってから鎮まっているが、まださらなる売りの可能性があると考えます。
2014年の最初の5ヶ月間ではETFは38.45トンの残高減少となり、2013年の同期の208トン、2013年一年間の869トンの売りを考えると取るに足らない量であり、これはゴールドの価格を考える上では強材料であると言えるでしょう。
米国債の利回りが低下しているのに、なぜゴールドETFの残高が増えないのか?
今年の年初からETFの売りが減少していますが、その一つの理由は米国債の名目金利も実質金利も、昨年12月からともに下がっているからです。10年物のインフレリンク債とゴールドETFの残高、そしてゴールド価格は非常に強い反相関関係があります(Figure6)。もし米国債の利回りが低下したのならば、なぜゴールドETFの残高が増えないのでしょうか?それは我々は金利の最終コーナーを曲がり、この先に起こることの予想はここから金利が下がることではなく、上がることであるからです。これは時間の問題であると考えます。もし今年ETFの残高があまり変化ないとすれば(減らないとすれば)それはゴールドの需要が悪くないということになります。
Bloombergの調査によれば10年物米国債の名目金利は2015年Q1には3.2%への上昇が予想され、もしインフレ率が2%であれば、実質金利は1.2%くらいだということになります。現在の実質金利(10 year TIPS yield ? 10年物Treasury Inflation-Protected Securitiesの利回り)0.3%と比べるとはるかに上がっていることになります。もしFigure6の相関関係がそのままちゃんと起こったとすれば、2015年Q1のゴールド価格は1100ドルに近いということになります。
主なゴールドの需要元は2012年よりも少ないが2013年よりはまし。
ゴールドETFからの売りが今年はスローペースであり、主なゴールド需要ソースからの(中国、インド、ETF)需要の合計は2013年よりも多いのですが、2012年よりは少ないレベル(Figure7)。しかし、これからくるかもしれないETFのさらなる売りを織り込むのにはまだ時期尚早。
ゴールド価格の上昇があっても頭は重たい。
米国の金融政策が正常に戻りつつある(つまり金融緩和をどんどん縮小していくこと)ことはゴールドにとっては弱材料。このため次ぎの2四半期くらいは価格は頭が重たいでしょう。最終的にはETFの売りは止まり、インドの需要が増加するでしょうが、この需要は加工用および宝飾用のものがメインであり、価格次第というものです。ETFのような投資需要は少ないでしょう。そのために価格の上昇があったとしてもそれは上値が限られたものだと思います。
供給サイドでは、今後数年鉱山生産は若干減少すると予想。
生産コストは昨年の年初から生産者によって切り詰められているが、現在までの生産に対する影響は限られたもの(Figure7)。しかしながら鉱山探索と設備投資が節約されているため、将来の生産が減少すると思われます。ゴールドの供給が価格に与える影響はそれほど大きくないと考えますが、需要にくらべて鉱山生産が減少することは価格のサポートにはなると思います。
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