メタルと実質金利
米国の5 year inflation linked bond (インフレ連動債)の利回りが上がっています。この利回りはずばり「実質金利」を表していると考えられます。このインフレ連動債の利回りの低下は、インフレ連動債と同期間の国債の利回りの差から考えると、今後の米経済でインフレの兆候はないとマーケットが考えているということだと思われています。
債券の利回りは、経済全体が今後の米経済発展をどう考えているのかよいインジケーターとなります。まず第一に利回りの上昇はメタル(貴金属)の価格に対してはマイナス。第二に少なくとも今現在はインフレが問題としては捉えられていないということが推測されます。インフレが貴金属が上がる要因のひとつだとすれば、債券市場の動きは貴金属、特にゴールドは大きく上昇するのが難しい状況にあるということになります。
以下のチャートは米インフレ連動債5年物による実質金利とゴールド、シルバー、プラチナの関係を、週間データで過去10年分それぞれに示したものです。債券の利回りとメタルとの間には強い負の関係を見ることができます。プラチナやパラジウムのようなメタルは投資需要に加えて産業用需要によって動かされることが多く、需給のバランスが重要であると我々は認識していますが、これらのチャートを見ると債券の利回り、つまり金利が上昇するとメタルのドル建て価格は頭を抑えられているという事実を無視するわけにはいきません。過去10年間米国の実質金利と貴金属の値動きの相関関係はゴールドが74%、パラジウムが63%、シルバー62%、プラチナ35%でした。
下のチャートの中には過去12ヶ月の金利とメタル価格との関係もハイライトしています。(オレンジ色の部分)これを見るとゴールドはほぼその金利との長期的な関係性どおりに動いています。パラジウムは過去1年では実質金利を無視して上昇しました。南アのストライキやロシア・ウクライナ情勢がマクロなトレンドを決めたのでしょう。実質金利の上昇は、米国経済の成長というよりは、インフレの予想が低いことから起きていると思われます。その結果、債券市場は米経済の今後の成長に対して楽観的ではなくなり、工業用需要が減ることとなり、パラジウムのような状況においても頭が重たくなると思われます。
また実質金利とLMEX index(LMEの6つのベースメタルの価格を指数化したもの)を比べてみると、ほとんど意味のある関連性は見られません。これにより(1) 貴金属は長い間、ベースメタル(非鉄金属)よりも金利の動きに敏感であった。(貴金属も工業用需要はあるが。)(2) このまま実質金利が上がっていけば、他の条件が変わらないと仮定すれば、貴金属はベースメタルよりもより頭が重たい展開にならざるを得ないでしょう。
短期的には米国の債券利回りが貴金属のマーケットを左右しそうです。実質金利が上がる以上ゴールドが大きく上がるのは難しいのが現状です。
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