インドのゴールド需要の現状
今週は中国とならぶゴールドの二大需要国のもうひとつインドについて書いてみましょう。
「インドの現状」
インドは2010年までは世界一のゴールド輸入国でした。2011年に中国に追いつかれ、2012年はわずかにリードされ、昨年2013年は大きく水を空けられました。
「インドと中国のゴールド宝飾需要(トン)」
2013年に中国との差が大きくなった理由は、もちろんその第一は中国の需要が飛躍的に伸びたことが大きいのですが、もうひとつ重要な点として昨年半ばに施行された政策があります。インド政府は昨年、増え続ける経常赤字対策としてゴールドの輸入税を8%から10%へ増税、そして俗に80:20ルールと呼ばれるルールを実行しました。これは輸入したゴールドの最低20%を宝飾品として加工した形で輸出しなければならないという決まりです。この二つの政策により、ゴールドの輸入量は激減、経常赤字も狙い通りに減少しました。経常赤字の原因は原油とゴールドの輸入だと見られていたのです。しかしこの政策の結果、インド国内のプレミアムが急騰、インド国内のゴールド価格が一時ロコ・ロンドンに対すして100ドル以上も高くなり、非公式のチャンネルからの密輸が急増することになりました。そして今年の4月から5月にかけて行われてた総選挙により、インドの政権は交代になり、新しい政権はビジネスへの理解が深いという見方がされており、また密輸を是正するためにもゴールド輸入税の引き下げ、80:20ルールの撤廃は時間の問題であろうという期待にマーケットは膨らんでいました。ところが新しい政権はマーケットの期待を裏切る形で、新しい予算案ではなんらゴールド輸入の制度に変更を加えませんでした。財務大臣の発言では、市場全体と重要な経済指標を数ヶ月は注視し、それから輸入税に関しては改めて検討するということなので、少なくとも今後数ヶ月はこの政策を変更することはなさそうです。また政府としても他に優先される問題が山積しています。上昇する食料価格、不調であるモンスーンの影響も数ヶ月以内には出てくると思われます。またインド政府はこれら国内問題以外にも、イラクでの緊張が国内の脆弱な経済の運営とインフレとの戦いに悪影響を与えるのではないかと恐れているようです。ただ今回新たな政権がゴールド輸入規制を緩めると期待して買わずに待っていた宝飾業者や消費者は、これによりあきらめ買いに動きだしています。今年前半1-5月は月30トンから50トンの輸入量だったのものが、6月にはいっきょに100トンに達しています。明らかに彼らはマーケットに戻ってきており、てインドのゴールド輸入量が今後年後半にかけてさらに増えることが期待されます。ただひとつそれに対する不安があるとすれば、政権が変わったことによって株価が大きく上昇していることでしょうか。結婚式にゴールドを送る伝統はまだまだ健在ですが、都市の若年層には投資という面からは、ゴールド以外の選択肢が増えており、このセグメントから「投資需要」は減少してきています。投資需要と宝飾需要の関係がどうなるのか今後の注目ポイントです。
「インド・ゴールドマーケットの伝統」
過去10年のインドのゴールド需要の75%が宝飾という形になっています。そしてその2/3が地方からの需要です。宝飾でもあり、また実質的には資産を守る投資ということでもあります。そのため実際ルピー建てのゴールド価格は過去10年で400%も上昇していますが、それによってこのような草の根需要が減少することはありませんでした。インドの人々のゴールドに対する深い信頼は宗教的な愛着もあり、まさに文化にしみこんだものと言えると思います。様々なライフイベントにおいてゴールドの果たす役割は重要で、たとえば結婚での持参金・贈り物はゴールドであり、宝飾需要の半分が結婚式需要だといわれています。娘が生まれたとき、その家庭では娘のためにゴールドを買い始めます。娘が結婚したあとにお金で困らないようにという考えからです。WGCの調べによると、今後10年間に一年当たり1500万回の結婚式があり、人口動態的にも人口の半分以上が25歳以下であるということで、インドのゴールド需要は今後も大きく減少することはなさそうです。昨年世界一のゴールド輸入国となった中国は、インドと比べれば「投資」色が強く、長期的視野では、買い一辺倒ではなく、ここ数年の日本のように売りに回ることもあろうかと思われますが、インドに関する限りはその文化的背景からもゴールドに対する草の根の需要はなくなることはなさそうです。
(インドの消費者アンケート:今後一年に買いたい物)
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