スタンダードバンク相場予想 「ゴールド1」2014-10-01(第4四半期)
第4四半期のCommodities Quarterlyが発表されました。今週はその中からゴールドを紹介します。
「貴金属相場予想」
「アジアの需要は未だに弱く2014年第3四半期もその傾向はあまり変わらないと予想」
ゴールドの上値は重たいという見方は変わらず。第4四半期には季節的要因でアジアからの需要は強くなる可能性があるが、ショートカバーによる上昇以外では相場の上昇の要因とはなりえないと考えます。そのショートカバーによる上昇もあったとしても最終的には一時的なものとなるでしょう。ゴールドがその底値を確認するためには以下の3つの条件が必要だと考えます。
・中国の需要が改善しなければならない。中国は2013年の買いすぎからの在庫の消費をすすめる必要がある。
・インドの需要も改善されなければならない。しかしこれには関税を下げる必要があり、少なくともこの先9ヶ月にそれが起こる見込みはない。
・米国の実質金利の正常化。2015年になると予想。
「インドと中国の需要は弱いまま」
アジアの需要は弱く、我々のみるところ改善しそうにありません。香港経由の中国のゴールド輸入量は5月までは好調でしたが、6月7月8月の輸入量は大きく減少しました。9月からは少しよくなりそうですが、昨年の第4四半期の月平均94トンといっためざましい輸入量のレベルには近づきそうもありません。直近の7,8,9月の上海での輸入数量は平均26トンという数字で、やはり香港がまだ圧倒的な中国へのゴールドの輸入ルートであると考えます。
さらに重要なポイントとしてSGEのプレミアムがゴールド価格が1300ドルから1215ドルまで下がっているのにもかかわらずほとんど動いていないということです。
SGE(The Shanghai Gold Exchange)のプレミアムは4月から下落し、だいたいゼロから5ドルの間での推移となっています。これは昨年や今年度第1四半期と比べると需要ははっきりと弱いと言えます。この動きをみると価格の動きがもっと大きく下落しないと中国の需要は盛り上がらず、ゴールドを輸入する動機がないということになります。
次のFigure3ではSGEプレミアムとゴールドの価格の間には負の関係があるのがよくわかります。ゴールド価格が上昇することによって需要が減退し、プレミアムも下落するということです。昨年のようなゴールド輸入のレベルになるためには、ゴールド価格が大きく下げる必要があります。
インドの需要は昨年の6月からの輸入関税上げのために振るいません。関税は2013年1月に4%から6%に引きあげられ、6月には6%から8%に、8月には8%から10%に上げられました。
関税の上げにより2012年の月間平均ゴールド輸入量の81トンから2013年は68トンに減少。昨年の8月から今年の3月までの平均はさらに30トンへ減少しています。インドの需要は今年の平均は50トンを下回るとみています。
ここまでインドのゴールド輸入関税の緩和はありませんが、もしそうなればインドのゴールド輸入量は確実に増えるでしょう。ただ少なくともあと半年は関税に関しては変化はなく、おそらく変化があるとすれば早くても来年の7月くらいになるでしょう。もしそうなればおそらく月当たり30-40トンの需要が増えるものと考えられます。ただ今度も続くであろうETFからの売りを吸収するにはずいぶん時間がかかると思います。
「歴史的相関関係は変わらず。」
昨年のETF残高の大きな減少にもかかわらず、ゴールド価格と他の金融商品との相関関係はほとんど変わらないままです。2004年から2012年の間、ゴールドETFが大きく残高を増加させた時をのぞいて、ゴールドはいつも米国株、米国実質金利そして米ドルと反比例の関係にあります。
「金利との関係は有効 ? もし金利が上昇すればゴールドは下落する。」
ゴールドETFのロングからの手仕舞い売りは今年に入ってからは少し収まりましたが、ただまださらなる手仕舞い売りの可能性は否定できません。
「今年は国債の利回りが下がっているのに、なぜゴールドETFの残高が増えないのか?」
5年ものの米国インフレリンク債とゴールドの価格はとても強い反比例の関係にあります。(Figure 6)国債利回りが下落しているのにどうしてゴールドETFの残高が増えないのでしょうか。究極的にはこれは我々が金利の曲がり角を曲がったからであり、市場の予想は金利は上昇していき、恒常的にここから下がっていくわけではないという見方が一般的になっているからです。これはタイミングだけの問題だと市場はとらえているからです。もしゴールドETFの残高が今年ほぼ変わらなかったとすれば、それはゴールドの需要にとっては強材料だと我々は考えます。
Bloombergの市場参加者調査によれば米国債10年ものの利回り2015年第1四半期の予想は3.2%であり、もしインフレ率が2%であれば実質金利は1.2%ということになります。これは現在の0.3%に比べて遥かに高い実質金利になります。下のFigure6での実質金利とゴールドの相関関係をみると、2015年第1四半期1.2%の実質金利時にはゴールドは1100ドル前後ということになります。
「ゴールドの需要の主要な部分は2012年よりも減少、2013年よりは改善」
ETFが昨年よりもゆっくりとしたペースで売られたので、中国、インド、そしてETFを加えた大きな需要分野からの需要は2013年よりは増加しているが、2012年と比べるとまだまだ少ないものとなっている。(Figure7)ただ今後まだETFがどのようになるかは判断できない。
「ゴールド価格の回復はまだしばらく望めそうもない。」
総体的に考えるとゴールドの弱い相場は米国の金融政策が正常化の道をたどる限り続きそうである。少なくともあと半年くらいは、この流れが続くと予想する。ETFの売りはいつか止まり、インドの需要は再び増加しよう。しかしゴールド需要は宝飾や加工需要によるところが大きく、それらは価格レベルに敏感であり、そのため余計に上昇を抑えることになるでしょう。
「供給面では鉱山生産は若干の減少傾向」
供給面では、この先数年間は鉱山生産は若干の減少になると予想。昨年年初から生産者は生産コストを抑えており、現在生産中の鉱山に対しては大きな影響はないと思われるが、新規鉱山の探索や設備投資に対するコストカットにより将来の生産は減少していくと考えられる。鉱山生産はゴールド価格決定においては昔よりも影響力は少なくなっているが、鉱山生産が需要に対して減少するということは少なくとも価格を支える要因になると考えられる。
★池水氏の著書『「金投資の新しい教科書」/日本経済新聞出版社』好評発売中!!
https://goldnews.jp/count2.php?_BID=3&_CID=16&_EID=773