スタンダードバンク相場予想「PGM 」2014-10-01(第4四半期)
「貴金属相場予想」
プラチナ、パラジウムそしてロジウムのマーケットは、地上在庫のことを考えなければこの先数年間は供給不足となる予想。にもかかわらず中期的な見通しは弱気気味。1300ドルのプラチナは安すぎるとみるが、直近で1400ドルを超えて上昇することはないであろう。
昨年6月に発表したプラチナとパラジウムの地上在庫に関する我々の分析では、地上在庫は非常に豊富にあるということでしたが、今年の(ストライキによる)大きな供給不足により、ある程度地上在庫は消費されましたが、いまだに在庫レベルは高いと考えます。その結果、バランスとしては、PGMが継続的に上昇するにはまだしばらく時間がかかりそうです。
ゴールドやシルバーと同じようにプラチナやパラジウムも米国の金融政策の行方と実質金利のレベルに左右されています。プラチナとパラジウムの関係では、パラジウムの方が過去10年では実質金利の動きとの強い相関関係を見ることができます。(Figure1 とFigure2)
8月からのプラチナ価格の下落は予測よりも大きなものでした。下落の大部分は、米国実質金利の上昇をみたNymexの投資家のロングの売り戻しが原因でした。プラチナのNymex投資家ポジションは、7月初旬から952Koz (約29.6トン)減少して、1451Konz(約45.1トン)になりました。(過去1年で一番少なかったのは2013年12月1047Koz(約32.5トン)です。)パラジウムはひとつだけ例外的な存在。投資家のポジションは6月の初旬から増加し始め、16Koz(約500kg)増えて、2286Koz(約71.1トン)となりました。
総建て玉(Open Interest)に対する割合としてはプラチナの投資家ロングポジションは43%。ちなみに、直近1年の平均値は54.6%で最低値は31.7%。現在プラチナは割安になりつつあると考えるが、まだロングの売りが出る可能性があるでしょう、特にドルが強含むことがあれば、その可能性は膨らみます。ただプラチナの1300ドルは安すぎるレベルであり、時間がかかると思われますが1400ドルへ近づいていくと考えます。
対照的にパラジウムの総建て玉に対する投資家ロングの割合は61%であり、7月初旬の53%から増加しています。過去1年間の平均値は51%、最高値は65%です。パラジウムはロングから入るべきメタルだと信じますが、ロングからの売りの可能性は高く、750-800ドルの間でしばらくは調整が続きそうです。
宝飾の需要がプラチナにとっての変動需要分野であると考えます。特に短期および中期的な観点からは、ロングの売りが終わりマーケットが落ち着いた後は二つの価値判断要因からプラチナのマーケットを考えます。その第1はゴールドとのスプレッド(値差)であり、おおまかにいって短期・中期では100ドルから200ドルの間での推移を予想します。(Figure 4)第2は中国の宝飾需要の行方です。プラチナの需要の中でもっとも大きな変動要因であり、これが強くなるか弱くなるかによって我々のプラチナ相場の見方が変わってきます。宝飾需要はプラチナの総需要の30%を占めます。
パラジウムはまず投資家のロングからの売りが出てくるでしょう。しかしパラジウムはショートではなくロングから入るべきメタルであると考えます。
パラジウムのマーケットは大きな供給不足状態にあるということ以外にもETFの保有残高の増加など短期的な要因でも価格はよく支えられています。中期的視点からは上に書いた投資家のロングからの売りでもう少し下がる可能性もありますが、750ドルを割り込むレベルでは投資価値があると考えます。
価格が大きく上昇したのにもかかわらず中国によるパラジウムの輸入は、2012年後半から2013年のレベルから大きく改善しています。(Figure 5)今年年初から8月まで中国は572Konz(約17.8トン)のパラジウムを輸入しています。昨年同時期の数字は437Koz(約13.6トン)、2012年は479Koz(約14.9トン)でした。
中国の自動車生産は2014年には2050万台に到達すると予測し、この数字はパラジウムの触媒用の需要が1.73moz(約52.9トン)になるということを示唆します。2013年の1.51moz(約47トン)から大きく増加することになります。現在の輸入のペースが続けば年間では858Koz(約26.7トン)となります。現在の中国での自動車触媒のリサイクルからのパラジウムの生産は300Koz(約9.3トン)に足りぬくらいであると考えており、中国はもっと海外からのパラジウム輸入を増やすか、もしくは国内にある在庫を使う必要があります。中国にはパラジウムの流通在庫はほとんどないはずであり、中国のパラジウム輸入量と自動車生産量は必ずしも一致しないが(自動車生産に対してパラジウム輸入が少なすぎる)、第4四半期には輸入は増える可能性が高く、それはパラジウムの価格をサポートすることになるでしょう。
世界的に考えると4大自動車生産地域である米国、EU、日本と中国の自動車売上の数字は史上最高値を続けており(Figure 6)特に中国と米国の売上は好調。年初から8月までの売上は昨年同期と比較して6.1%上昇しています。今年の自動車売上の伸び予想は5.5%であり、2016年には6.8%増加すると予想。年後半は毎年売上がスローダウンすることを勘案すると(Figure 6)、年初からここまでの自動車売上の推移はだいたい目標どおりということができます。
中国の今年年初からこれまでのプラチナ輸入は過去の同期との同期と比べると弱く(Figure 7)、8月まで中国は1.58moz(約49.1トン)の輸入をしていますが、昨年の同期は1.94moz(約60.3トン)でした。中国のプラチナ輸入は極端に多かった昨年2013年の実績だけではなく2012年、2011年そして2010年の数字さえも下回りそうです。価格が下がっているために2014年後半は輸入量が回復する可能性もありますが、それでも昨年のレベルに追いつくことにはならないでしょう。貴金属の輸入は直接的に比較することはできませんが、それでも香港経由のゴールドそしてシルバーの輸入も3月以降その勢いがずいぶんと弱まっています。
プラチナの輸入の弱さは二つの原因があると考えられます。
1.昨年と比べると価格があまり動かなかったために、総体的にマーケットに対する投資家および実需家の興味が薄れたこと。
2.ゴールドの価格との関連。ずっとゴールドよりも割高であったため。しかし現在ゴールドとの値差が100ドルを割ってきているためにプラチナの輸入も改善してくるはず。これをひとつの理由として2014年第4四半期のプラチナの平均価格は1360ドルと予想。
プラチナの輸入がより価格に敏感になっていること(Figure 8)を別にしても、中国の宝飾需要という観点からは2012年からゴールドの価格に反応するようになっています。
もっと重要な質問は、「中国のプラチナの輸入は、中国のプラチナの総需要、特にその大部分を占める宝飾需要とどのような関係があるのか?」ということです。
プラチナの輸入量のデータは2009年からしかありません。そのためこの限られた期間のデータから重要な経験則を導き出すことは困難ですが、中国のプラチナ総需要と輸入量を比較してみると2013年は、非常に特異な年であったことがわかります。(Figure 9)これは必ずしも中国の宝飾需要が減少するということではなく、中国のプラチナ輸入が昨年よりも減少するということを強く示唆するといえるでしょう。
一般的にこの国はほとんどメタルの輸出をしません。一度中国に入ったメタルは中国国内にそのまま存在することになります。そのため輸入の減少は価格の動きに対してはマイナス要因となります。(他の条件が変わらないとすれば)
現在の我々の予想は中国のプラチナ宝飾需要は今年は42Koz(約1.3トン)増加するとみており、2013年の1841Koz(約57.3トン)から1883Koz(約58.6トン)になると予想します。もしプラチナの輸入が2013年のレベルより、より大きく後退したならば、この需要予想は強気すぎるということになるでしょう。ただまだこの見方を訂正するには尚早だと考えます。輸入量と宝飾需要が必ずしも平行に動くわけではないからです。
南アでのストライキの結果、今年は1moz(約31.1トン)もの供給不足を予想します。しかしマーケットでは十分な在庫がまだ存在し、これによる価格への大きな影響はないでしょう。それよりも宝飾需要が変動要因であり、もし宝飾需要が弱ければ、プラチナが大きく上昇することはないでしょう。
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