胎動するゴールドの現物マーケット
今年はここまで、特に春以降は現物が本当に動かない一年となっていますが、9月に入り、ゴールドが1200ドル前後に下落するに及んでいて、ゴールドの現物マーケットに少し動きが出てきたようです。
・9月の香港経由の中国のゴールドの輸入が大きく増加。ネットのゴールド輸入量は8月の27.5トンから9月は68.6トンと2.5倍へ急増。これは6ヵ月ぶりの水準。10月前半のゴールデンウィークでの需要が盛り上がったよう。輸入だけの数字は91.7トン。同様にSGE(Shanghai Gold Exchange:上海黄金交易所)でも10月のゴールデンウィークの前後に約70トン近いゴールドの現物の引き出しがあったとのレポートがありました。
(香港経由中国のゴールド輸入量)
インドは同じく9月に前月比450%高となる100トンのゴールドを輸入。ヒンズー教の光のお祭りDiwaliでの需要を当て込んだもの。
世界最大のゴールド需要国であるインドと中国で明らかに9月はその需要が増加してきました。そしてそれと時同じくしてJP Morgan Chaseのゴールド口座からゴールドが急速に引き出されているというニュースが入ってきました。ゴールド口座とは世界中の金融機関がロコ・ロンドン・ゴールドの口座として開いている口座で、JP Morgan Chaseはおそらくその口座の最大のものです。(ほとんどのマーケットプレイヤーがここにゴールドの口座を開いていると言っても大げさではありません。)そのJP Morganのゴールド口座から10月23日、約10トンものゴールドが引き出されました。これは今年1月の初めに起こった二回の10トンの引き出しと同じ量です。(下の表はJPMの倉庫にあるデリバリー可能なゴールドの総量(青線)、そして毎日の変化(赤線)です。)特に総量に注目するとこのところ減り続けているのがよくわかります。23日には一日になんと約25トンから、15トンへ40%ものゴールドが引き出されました。このゴールド残高はちょうど一年ぶりの低水準となります。9月1日には46.7トンの残高があったこの口座残高が現在わずか15トンと一ヶ月で30トン以上引き出されたことになります。
(JP Morgan Chaseゴールド口座残高の推移と一日あたりの動き)
そして興味深いのは、このJPMゴールドアカウントからのゴールドの引き出しと同時に、Gold ETFも大きくその残高を減らしたことです。
(Gold ETF残高とゴールド価格)
このJPMのアカウントからの大量のゴールドの引き出し、ETFのゴールド残高の減少は何を意味するのでしょうか。相場は1200ドル前後まで下落し、そこで比較的狭いレンジでの動きに終始しており、これだけの現物の動きがあまり相場レベルには影響を与えていませせん。明らかに誰かが意図的にゴールドを動かしているはずなのですが。いろいろな想像が可能ですが、まず第一に考えられるのはやはり中国・インドの二大消費地に向かったというセオリー。ラージバーがスイスでキロバーに鋳直されて(中国は99.99%、インドは99.5%)、9月の需要に対応したという見方。これが最もありそうな話。もうひとつ可能性が考えられるのは、ドイツが国外に存在する400トンのゴールドを国内に移送する一環かもしれないということです。ただしこれはまったく何の確証もないので、単なる想像に過ぎませんが。
とにかく目立たないところで現物が動き始めています。1200ドル近辺から大きく下がらない理由はドル高の是正だけではなさそうです。
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