ゴールドコラム & 特集

中央銀行の動き

ゴールドのマーケットを考える上でポイントになる点はいくつかあります。

・米ドルの動き
・米株価の動き
・Nymexの投資家ポジション
・Gold ETFの残高推移
・中国、インドの輸入数量
・中央銀行の買い

などなどほかにもまだいろいろあるとは思いますが、その中で今週は中央銀行の動きに関して書いてみたいと思います。

■「ロシア中央銀行の買い」

現在ロシアのゴールド保有高は1169.5トンとなりました。IMFのデータによると今年10月末までのロシアの購入量は134.4トンであり、今週ロシアの中央銀行総裁が国会で、今年の購入量はほぼ150トンであると証言しているので、おそらく今月に入ってから16トン近くのゴールドを買っていると考えられます。2005年からロシアのゴールド保有量はほぼ3倍となっており、これは西側からの経済制裁に対するリスクヘッジであるとみることもできます。ルーブルが今年は25%も下落し史上最低レベルまで落ち込んでおり、ロシアの収入の40%以上を占める重要な輸出品である原油は110ドルから80ドル割れまで下落しており、ルーブルの信用を保つためにもゴールドの保有はロシアにとっては意味があることのようです。現在ロシアの外貨準備におけるゴールドの割合は約10%であり、ほぼ70%をしめる米国やドイツと比べるとまだまだ低い比率といえます。現在の彼らの買い姿勢を見ているとまだロシアはゴールドの比率を上げようとしているように見えます。10月11月の彼らの買いがゴールドの底値を支えた要因のひとつとなったのでしょうね。

WGC(World Gold Council)によると中央銀行は第三四半期に93トンのゴールドを購入しました。これは昨年同期から9%低い数字ですが、15四半期連続で中央銀行はネットでの買い手であり続けています。93トンの半分以上(55トン)がロシアによって買われています。年初からの中央銀行の買いは335トンで、2013年の同期の324トンとほぼ同じレベルになっており、2014年もまた中央銀行は大きな需要者ということになります。ロシアに加えてカザフスタンが28トン、アゼルバイジャンが7トン購入しており、いわゆるCIS諸国の買いが目立ちます。そして売りに目を転じると同時期に出た売りはわずかに4トンでした。

(2014第三四半期の中央銀行のゴールド買い)



3rd CBGA(Central Bank Gold Agreement)が9月に終わりとなり、(現在は4th に更新されています。)この5年間に売られたゴールドは2000トンの枠のうち207トンだけであり、その大部分である181トンはIMFによる限られた売却プログラムでした。中央銀行はもうほとんどゴールドを売ることには興味がないようであり、この傾向は今後も変わらないと思われます。インドや中国と同じくゴールドの需要家として中央銀行は今後もゴールドの下支えをしていくのではないでしょうか。

またこのところ目立ってきた動きとして海外に委託保管している自国のゴールドを、持ち帰る(repatriateという単語を使います。)というものがあります。先にドイツが400トンのゴールドを自国に移送することになり話題になりましたが、先日オランダ中央銀行がその保有ゴールドの20%を米国から自国へ輸送したというニュースが出ました。オランダはそのゴールドを、11%が自国、51%が米国、20%がカナダ、18%がロンドンに保有していたということですが、これでNYは31%になりました。122トンのゴールドがNYからアムステルダムに移送されたということになります。必ずしも自国にすべてのゴールドを置いておくことが安全ではないので、他国へ委託保管しておくわけですが、(すべてのりんごを一つのかごに入れるな、ということですね。)最近は他国に預けておくということによりリスクを感じる国民が増えてきたようです。

(中央銀行のゴールド保有量と外貨準備における割合)



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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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