ゴールドコラム & 特集

中国の環境汚染とPGM

今週は現在行われている中国の全人代で感じたことを少し書きましょう。

3月5日から15日までの11日間、中国で日本の国会にあたる「全国人民代表大会」(全人代)が開かれています。この中でも重要な議題となっているのが、中国の抱える環境問題です。「新常態(ニューノーマル)」という新しい言葉のもとに「経済成長の量から質への転換」を図り、GDP成長率を7%に落としてでも、環境保護に対するコストをかけて改善を図るという決意が見られました。2月27日に新しい環境保護相となったばかりの陳吉寧(Chen Jining)氏は全人代での記者会見で、「青い空は取り戻せる」と強調し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の開催に合わせ北京周辺の工場を停止し「APECブルー」と呼ばれる青空を実現したことを引き合いに「天任せではなく、排出量を大幅に下げなければならない」と語ったと報道されています。「中国建国以来、最悪の環境汚染だ。」と叫び、新環境保護法による厳罰化を宣言しました。

この御仁、英国で教育を受けた人で、水質汚染など環境問題が専門の著名な学者であり、ロンドンのImperial Collegeで勉強し、中国でも最難関の大学のひとつである清華大学学長を勤めていましたが、今回の全人代開幕直前、まさに大抜擢を受けたということなのです。清華大学は習近平国家主席の母校でもあり、そのような縁もあったのだと思われますが、記者会見の内容やその様子を見ていると本当に真剣に環境問題に取り組む姿勢が現れています。彼の前任者は何もしないという批判を受けていただけに、彼の真剣さがよりよく目立つことになっています。また今後数年で環境保護分野に必要な投資額は8兆元から10兆元(約156兆円から195兆円)とし、環境保全のためにつぎ込む決意をはっきりさせました。昨年からの環境汚染の取り締まり強化のために違法行為で摘発された事件が「過去10年の総数の2倍に当たる2080件に上った」とも述べ、工場の汚染物質の違法な排出や廃棄が含まれているものと思われます。彼は中国が直面する環境問題がどれほどひどいものか、それに対する危機感を十分すぎるほど陳氏はもっていると思われます。

そして全人代前の週末に元CCTVの女性ジャーナリストである柴静(Chai Jing)氏が作ったPM2.5問題ドキュメンタリー『穹頂之下』(Under the Dome)が放送され、これを何百万人もの中国の人々が視聴し、ネットでの再生回数は2000万回を超えたという背景があり、これに関しても「国民の環境に対する意識を高めてくれた」と感謝の意を表しています。

『穹頂之下』(Under the Dome)


今後はより厳しく改正された環境保護法が今年の1月に施行され、情報の共有化と民衆との協力体制を一層強めていき、今後10年間、環境汚染対策は中国政府のもっとも重要な政策の焦点となると思われます。この新しい環境保護相Chen氏は前任者と違い本気のようです。

さてそうなったとき、やはり環境汚染対策で大切になってくるのが、PGMだと思います。

特にロジウムとパラジウム。中国の大気汚染がすすめばすすむほどロジウム・パラジウムが必要とされるようになります。中国での排出規制がこれからどんどんすすんでいく上で、特に自動車の排気ガス規制は欧州と同様に今後一段と厳しくなる見込みです。厳しい規制が単純にその分より多くのPGMを使うという短絡的なものではないにしろ、(むしろこれからの技術の進歩により、一台当たりのPGM使用量は減っていくでしょう。ただし下のチャートでもわかるように中国の自動車の売上台数はまさに大きく拡大中であり、もはや2位米国、3位日本のほぼ2倍の自動車が売られています。絶対的な台数の伸びは、一台あたりの触媒でのPGM使用量の減少を簡単に超えてしまうでしょう。)投資家に与えるイメージとしての触媒利用の増加は大きいと思えます。


(中国自動車総販売数とパラジウム価格の推移)



(ドル建てロジウムJM Price)



(パラジウムドル建て価格)



下げが続くプラチナとは対照的ですが、ロジウムは1200ドル近辺で支えられており、パラジウムはゴールドやプラチナが大きく値を崩す中でもほとんど下げず、逆に800ドルを超えてそれを維持しています。中国の今後の環境汚染対策がどのように進められていくのか、それはPGM、特にパラジウム及びロジウムの価格にも大きく影響を与えると思います。


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岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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