インドのゴールド・マネタイゼーション・スキーム(Gold Monetization Scheme:GMS)
5月後半にインドのモジ政権は新たな「GMS」を発表しました。マネタイゼーションとは、具体的には、資産や資源などを現金化するという意味です。インドには22,000トンから23,000トンものゴールドが個人によって保有されていると見られており、これは現在の相場での価値は1兆米ドルに値します。
インド政府はこれらの個人によって退蔵されたゴールドを、自国の金融市場に取り込み、まさにゴールドの現金化を目指しているのです。このスキームの内容は、ゴールドを保有している個人が、銀行で開いたゴールド口座に、保有のゴールドを預けることができ、一年以上預けることによって、引き出しの際には金利とともにゴールドを受け取れるということです。
GMSがちゃんと働くかどうかは、現在休眠状態におかれているゴールドをいかにスムーズに表に出してくるか、にかかっています。それがうまく行けば、ゴールドが金融システムの中に組み入れられ、経済の「血液」となるでしょう。これがまさにゴールドのマネタイゼーションです。
これが成功すれば、これまで各家庭で寝ていたゴールドが市場に再流通することになり、ゴールドの需要を満たす新たな供給元になり、同時に経常収支赤字の大きな原因の一つであるゴールドの輸入はその分減少することになり、これは一挙両得な政策であるといえます。
WGC(World Gold Council)はこの政策の立案に絡んでいたのかもしれませんが、この政策を諸手を挙げて絶賛しています。ゴールド宝飾品のリサイクルを活発化させ、インドのゴールドマーケットの透明性を増し、そして何百万もの家計と経済に利益をもたらし、最終的にはゴールドの貯蓄が、経済投資へと移されていくことになるだろうと。
WGCによると、インドの消費者の間には、彼らのゴールドをリサイクル(上手く活用という意味でのリサイクル)したいという要望は強く、そこに立ちはだかる大きな問題として、指摘しているのは、そうするためのインフラがまだできていないということです。ゴールドの品質保証、フェアな価格での取引、取引の簡素化などがいまだにインドでは未整備で、消費者の要望に応えられていないのが現状です。
それでもWGCが楽観的見方を一貫している理由としてトルコでの似通った前例をあげています。トルコもインドと同じようにゴールドがその文化に深く組み込まれている国ですが、ゴールドをその金融システムに取り込むことに成功しています。2013年の年末までにトルコの商業銀行は約250トンものゴールドを集めました。これには40トンものいわゆる「タンスの肥やし」で、これまで表に出てこなかったゴールドも含まれており、現在はそれが金融システムの中で有用に利用されているのです。このトルコの成功例は今後のインドのGMSを実行する上で大きな参考になることと思われます。
今後は先に書いたようなインフラの整備がまず必要ですが、それだけの価値がある投資だと思われます。ただ個人的にはWGCほどは楽観的にはなれません。これだけゴールドが生活の一部となっているインドの民、特に農民がわずかな金利を求めてそのゴールドを銀行に預けるでしょうか?逆に銀行や政府といった既存の社会のインフラに対する信頼がないからこそ、ゴールドを買って身につけているのではないのでしょうか?そんなに簡単にゴールドを手放して(売るという意味ではなくて肌身から話して他人に預けること)しまううとはどうも思えないのです。
そしてもう一点、もしこのGMSが上手くいったとするならば、現在の「タンス預金」が市場に出回り、おそらくゴールドを新たに輸入する必要はなくなるでしょう。(そもそもそれが狙いですね。)とすれば、国際市場からのインドの買いは必要なくなります。もしそうなったらゴールドマーケットに与える影響は計り知れません。一年に700トンから800トン近いゴールドを輸入する国がなくなるわけですから。この政策、インド政府にとってはよいこと尽くめであることは確か。ただゴールドマーケットにかかわるものにとってはちょっと複雑な心境にならざるを得ません。今後のGMSの進展に注目しましょう。