ゴールドコラム & 特集

今年後半の相場展望・ゴールドとプラチナ

今週はちょっと久しぶりに(笑)相場の話を書きましょう。年初に今年の相場は昨年と同じような狭いレンジでの一年になりそうだということを書きましたが、ここまで半年たって振り返るとゴールドはまさにそんな感じの相場になっています。

ゴールドはここまで1130ドル-1300ドルのレンジであり、もう一年の安値と高値をやってしまった感があります。

プラチナは予想に反して一方的な下落が続いています。年初は1200ドルから始まり、1300ドルまで上がった後は基本的にずっと右肩下がりの展開が続いており、この原稿を書いている6月後半、1070ドルと年初来どころか2009年3月以来の安値となっています。

「ゴールド相場展望」

(ドルインデックスとゴールド:3 years)



ゴールドに関しては、米の来るべき利上げを材料に弱気見通しの投資家および専門家が多く、過去1年以上まったく同じこの材料によってゴールドは頭が重たい展開が続いています。

しかし、これまでのところ多くの人の予想に反して、ゴールドが本格的に下がる局面にはまだ至っていません。

ドルの動き(ドルインデックス)とゴールドの動きを対比してみるとその状況がよくわかります。ドルは2014年7月から上昇を開始し、2014年7月1日、ドルインデックスは80から、2015年3月13日に100をヒット、ここまでほぼ一直線の上昇となりました。

これに対してゴールドは1330ドルから1150ドルまで下落、その後は1160-1240ドルのレンジに中での動きに終始、ほぼ3ヶ月間、このレンジは完全には破られていません。実は前回ドルインデックスが100まで上昇したのは、2003年1月末、ほぼ12年前まで遡ります。そしてその時のゴールドはなんと350ドルでした。これを考えると今回のドルインデックス100の時点で、1150ドル近辺までしか下げなかったという事実に、私は(この環境においてこのレベルから下げない)「ゴールドは強い。」と感じます。もし弱気筋の見方が正しかったとすればもはやとっくに1000ドルを割り込み、ゴールドは3桁に突入していておかしくありません。

ところが、過去5年間をみてみても、1150ドルを割れたところでは非常に強いサポートが存在し、どんなにドルが上がろうと、ゴールドは明らかにその辺りでの下値抵抗を破れずにいるのです。6月半ば現在ゴールドは1200ドル近辺での推移となっています。このレベルでは中国・インドそして東南アジアといった実需の需要はほぼ皆無。そのため、大きく積極的に上昇する状況ではありませんが、50ドル下げれば需要が出てくると考えます。またギリシャを中心とする欧州からの不安が、またゴールドを売れないという環境を作り出しています。

そして実際に、FRBが金利上げを発表すれば(9月もしくは12月?年内が濃厚に)、大方の予想とは逆にゴールドは材料出尽くし感、そしてそれまでの下値抵抗感からのあきらめから、噂で売って事実で買え、で上昇するのではないかと考えます。繰り返しになりますが、下がるのなら、もうとっくに下がっているはずでしょう。

今年後半はやはり下値1140ドルくらいから上値は金利の上げがあると考えて、そのリアクションによるショートカバーで1300ドルくらい(前回今年1月の高値付近)まで上げてもおかしくないでしょう。そういう意味ではもはや今年の高値・安値はつけており、今年は本当に狭いレンジ取引の一年になると思います。

ゴールドの大雑把な生産コストは現在1200ドルくらいだと言われています。相場は必ずしも生産コストによって支えられるとは限りませんが、長期的に考えるとやはりコストを割った相場レベルの長期的維持は難しいと思います。

一方、円建てでも似たような動きです。安値は4500円、高値は5000円、両方ともすでに今年の前半でつけていますが、円安・メタル安が相殺し、これくらいのレンジで終わりそうです。ただ上記のような理由でメタル安よりも円安の方が伸びしろがあり、どちらかといえば円建てゴールドは上昇する可能性の方が高いと考えます。

(円建てゴールドとドル円の動き: 1 year)



「プラチナ相場展望」

(プラチナ、ユーロ、ランド:3 years)



プラチナの下落が止まりません。6月半ば現在1080ドルを割り込み、2009年3月以来の6年ぶりの安値に沈んでいます。プラチナにとってはマイナス材料ばかりが目立ちます。

・まずはその地上在庫の多さが指摘されていること。

・最大の需要(約40%を占める)であるディーゼル自動車の排ガス触媒需要が、その主な使用地である欧州問題のために盛り上がりにかけること。

・鉱山生産の65%を占める南アの通貨ランドが歴史的安値圏にあり、南アプラチナ生産者の売りに拍車をかけていること。

・ユーロ安は逆に欧州の需要家に買い手控えさせるものであること。

・需要の30%を占める宝飾需要の80%のシェアを握る中国で、半腐敗運動の煽りを受け、宝飾品の販売が激減、プラチナの需要も大きく後退。

このような状況下において、現在プラチナはゴールドを大きく下回りゴールドに対してドル建てで120ドルのディスカウント、円建てでは470円も安くなっています。ゴールドには欧州不安やドル安といった動きから逃避資金が入ってくる地合いがあり、上昇の余地がありますが、プラチナ(およびその他貴金属)にはそういった投資資金が入ってくることがなく、逆に下落によるロングのさらなるポジション整理が出やすい地合いになり、よりその価格差が広がりやすい状況が加速されています。まだしばらくはゴールドの独歩高、プラチナの弱気の状況は続きそうです。

ただし、長期的にはプラチナとゴールドの逆転は長続きしないと考えます。そもそもの生産量はゴールドの年間3000トンに対して、プラチナはせいぜい200トン。希少価値が圧倒的に違います。その用途もゴールドは投資と宝飾というそのままの形での需要が8割を占めるのに対して、プラチナは7割が産業用需要であり、必ず必要な需要の割合がはるかに高いのです。それゆえ、需要構造の似通ったシルバー、プラチナ。パラジウムは「工業用メタル」と分類されます。

3年5年10年といった長いスパンで考えられるのであれば、生産コストをはるかに割り込んでいるこのレベルは拾っておいて損はないのではないでしょうか。特に現物投資という観点からはゴールドよりもはるかに安いプラチナは単純にお買い得といえるでしょう。地上在庫がはけたあとの南アの供給に関して、やはりその労使問題が常に不安要素として存在し、プラチナ価格が下げれば下がるほどその問題は深刻化していきます。

短期的にはまだ下げの場面が続く可能性が高いと思われます。あせる必要はないとは思いますが、おそらくは底値に近いところにだんだん近づいてきているのではないかと感じます。ニューヨークの先物市場の投資家ポジションは大きく減少、今後は売り手がいなくなる、もしくはショート筋が増えてくればそれは逆にショートカバーの可能性を上げ、内部要因的には強気要因となります。今年後半は安値はあるとしても1000ドル近辺、今後の高値の目途はなんらかの状況変化が無い限りはとりあえず1300ドルがよいところでしょうか。円建てではとりあえずの目途は2012年後半の4000円、高値は4500円。後半も頭が重たい展開は続きそうです。米国の金利上げでメタルにショートカバーが入る場面が、大きく戻すチャンスになろうと思われるのはゴールドと同じ。欧州の景気の本格的な回復もプラチナにとっては待たれるところ。ただしギリシャ問題はそんなに簡単に解決というわけには行かず、そういった意味でもまだしばらくはプラチナの低迷は続きそうです。

(円建てゴールドと円建てプラチナ:1 year)



岡藤商事株式会社

プロフィール

池水 雄一

Yuichi Ikemizu

スタンダードバンク東京支店長

1990年クレディ・スイス銀行、1992年三井物産貴金属リーダー、2009年より世界一の金取引量を誇るスタンダードバンクの東京支店長に就任し、現在に至る。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界の貴金属ディーラーでBruce(池水氏のディーラー名)を知らない人はいないと言われている。著書に「THE GOLD ゴールドのすべて」など。

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