フォルクスワーゲンの排ガス試験不正問題
日本がシルバーウィークを楽しんでいる間にマーケットを震撼させるニュースが出ました。トヨタと世界首位を争うドイツのフォルクスワーゲンが、米国での排ガス試験で、試験の結果と実際の走行時の排ガス量データが異なるという指摘を受け、米当局から最大2兆円の制裁金が科される恐れが出てきています。9月18日金曜日に米EPA(Environmental Protection Agency:環境保護庁)は、同社がテスト時だけ排ガスを問題ないようにする「排ガス隠し」のソフトを使い、実際の運転時には規制の40倍以上もの汚染物質を排出しているとして、50万台もの自動車のリコール命令を下しました。
EPAのニュースリリース
http://yosemite.epa.gov/opa/admpress.nsf/bd4379a92ceceeac8525735900400c27/dfc8e33b5ab162b985257ec40057813b!OpenDocument
この対象になっているEA189というディーゼルエンジンを搭載した車両は全世界で1100万台が販売されているらしく、フォルクスワーゲンは、対策費用として65億ユーロ(約8700億円)を特別損失に計上するとのことです。(日経新聞)
New York Timesによると、フォルクスワーゲンには車両が排ガステストを受けるとそれを探知する方法があるとのことで、その場面ではその車両は、排気ガスを問題なく制御するメカニズムが働き、規制上何ら問題ない状態にすることができます。そしてテストが終了すれば、それらのメカニズムはシャットダウンされ、規制よりも遥かに多い汚染物質を排出するようになるとのことです。
なぜこのようなことになったのかは、まだ調査中のようですが、一つの理由として考えられているのは、そもそもガソリン車に比べてパワーの劣るディーゼル車を米国で売るために、フォルクスワーゲンは排ガス再循環システムに高モードと低モードを設定し、自動車のパワーを得るためには、より多くの汚染物質をそのまま排出するという仕組みにして、パワーを補っていたのではないかということです。つまり、そもそも昔はディーゼルカーと言えば、パワーを得るためには排出物が多く環境に良くないというイメージであったものを「クリーンディーゼル」というこれまでの二律背反的事象を解決してしまったイメージでマーケティングしていたわけで、この「クリーンディーゼル」自体に対する疑いとして、今後はフォルクスワーゲンのみならず、他の自動車メーカーにも大きな影響を与える恐れがあります。(↓の写真はクリーンディーゼルの宣伝の写真。「君のお父さんの時代のディーゼルエンジンとは違うのだよ。」という趣旨でクリーンを前面に出しています。)
フォルクスワーゲンに対する調査は皮肉なことに欧州で始まったようです。ラボでの試験と実際の走行試験での数値が大きく乖離していたことから、欧州と米国が共同で、意図としては、規制の厳しい米国製のフォルクスワーゲンの方が、規制が緩やかな欧州製よりも遥かに「きれい」(有害物質の排出が少なく)走れることを証明することで、テストをしたのです。そして残念ながら実際のサンディエゴとシアトルの間での走行テストの結果は、その意図の全く逆を示したのでした。フォルクスワーゲンJettaとPassatはそれぞれ、米国の規制数値の35倍と20倍の有害物質排出となり、Jettaは米国の規制で許された最低基準の15倍、Passatは5倍というひどい結果になりました。ちなみにBMW 5Xはこの厳しい基準を合格し、非常に対照的な結果となっています。
米国製フォルクスワーゲンの「スーパークリーン」ディーゼルを欧州に持ち帰れるとの期待が、逆にフォルクスワーゲンが長い間嘘をついていたことを証明するという結果になってしまったのです。同社は、最初は単純なソフトの欠陥であると主張していましたが、時代を遡って調べて行くと、ラボ検査の結果と実際のロードの結果は一環して違っており、ラボでは全く問題は出ていませんでした。これにより米当局は2016 年から同社の自動車を売ることを許可できないということになって初めてフォルクスワーゲンはこの検査を探知する「検査すり抜けシステム」の搭載を認めたのでした。
このニュースが明るみに出て欧州株そしてニューヨークの株式市場は売られ、そしてプラチナは火曜日には930ドルと6 年半振りの安値を付けています。
個人的にはこのリコールによって必然的にプラチナの需要が増えるのでは、と思ったのですが、マーケットは人々のディーゼル離れを連想したようです。プラチナの需要の約4割が自動車触媒、そしてそれが主にディーゼル車での触媒であることを考えると、ディーゼル車が売れなくなると、これは確かにプラチナの需要に大打撃を与えることになります。また逆に、水曜日になってパラジウムが急騰。ディーゼル離れ=ガソリン回帰でしょう。そもそも売られ過ぎという状態にあったパラジウムは大きく上昇しており、同じ自動車触媒の材料であるPGMでも明暗を分けています。
このニュース、米国ではそれほどプラチナの需要に影響を与えるわけではありません。米国におけるディーゼル車の割合はGFMSによると5.6%と自動車全体の中ではマイナーな存在でしかありません。しかし、やはり欧州となると話が違います。プラチナ需要全体の約4分の1を欧州のディーゼルカーの触媒が占めており、もし欧州で本格的にディーゼル車離れが進むようだと、これは深刻な問題となるでしょう。
これからどのように事態が進展していくのか、プラチナマーケットにとっては非常に重要な問題になりそうです。