中国の需要は2013年の記録を更新?― ペイパーゴールドと現物ゴールド
11月第二週のSGE(Shanghai Gold Exchange)からのゴールドの引き出しは44.9トンとなり、中国の今年のSGEからの引き出し(=需要?)はもはや2210トンとなり、これは年末まであと1ヶ月半となった今、もはや2013年の記録を更新し過去最高となっています。
SGEの数字は第43週までのものあり、これまでの記録は2013年一年間の2181トンというものでした。今年は同期比でも2013年よりも366トンも多いのです。これから年末へ向けて来年の春節向けのゴールド需要が増加すると考えると、今年は2600トン以上もの需要になるのではないかと予想されます。
このSGEからの現物引き出しが果たして本当の中国のゴールド需要を示しているのかどうかは、議論が分かれるところです。GFMSやMetals Focusといったゴールドの需給分析のメインプレイヤーは2015年は2013年に較べるとまだまだ中国の需要が弱いと見ていますが、このSGEの現物引き出しが本当の中国の需要を示していると考えているアナリストもいるのです。
確かにこの2年間は、それまではほとんど香港を経由されていた中国のゴールド輸入が、上海や北京に拡散し、香港が発表する数字だけではその全貌はつかめなくなりました。ですから香港経由ゴールドを持っていっていた我々のようなトレーダーにとっては、中国の需要は確かに減少しているように思えます。
しかし、もしこのSGEからの現物引き出しが、中国の本当のゴールド需要を物語っているとすれば、2600トンという数字は、一年間のゴールド鉱山生産の80%を中国が吸収していることになります。2015年推定される中国の自国でのゴールド生産(中国は世界一の産金国です。)と輸入量を合計すると1900トンくらいだという推計があります。それでも2600トンにもなろうとするSGEの現物引き出し量とは大きな差があります。この差は香港以外の記録が発表されない場所での輸入、そして中国国内でのスクラップ回収からの供給などがあるものと思われます。
それと関係があるのかないのか、先週Brinks 香港のComex指定倉庫から685,652オンス(約21トン)のゴールドが引き出されました。(表1)これはJP Morganの倉庫で預かっているゴールドとほぼ同じ数量という規模になります。米国のComex指定倉庫ではほとんどゴールドの在庫は動かないのですが、香港では大きな数量が入ってきたり出て行ったりしています。そしてここから引き出されたゴールドの現物はほぼ間違いなく中国に向かっていると思われます。その上に先週、あまり在庫の動かないはずの米国でもComex在庫から大きな現物引き出しがありました。合計425,500オンス(約13.2トン)という数量です。(表2)
現在ゴールドの価格はComex での先物取引で決められているといっても過言ではありません。ただこれは現物を伴わないいわゆるペイパー取引であって、現物の数量をベースに考えると、200倍以上のレバレッジがかかった計算になります。そのため、実際の現物がベースであるアジアと現物の伴わない、つまり価格だけの取引であるニューヨークのギャップは相当大きなものがあります。つまりComexからこれだけの現物の引き出しがあるということは、誰かが現物を集めているということになります。投資家のペイパーゴールドの売りによって、現物の価格も下がっており、アジア勢は逆にこの低い価格で買えるのでは、と活発にゴールドを買っているのです。このペイパーゴールドと現物ゴールドのギャップはどこかで訂正されるはずです。先物投資家の売りによって実需とはかけ離れた安い価格になっているとすれば、その是正はいつか必ず入ってくるはずです。