ロンドンゴールドマーケットも電子取引に?
とうとうロンドンのOTCゴールドマーケットさえもコンピュータ化されそうです。100年以上の歴史を誇るLondon Gold Fixingがコンピュータ化されたのが昨年の半ばでした。その引き金になったのはLIBORにおける不正操作でした。ロンドンフィクシングはほんの数社でベンチマーク価格を決めるということで、何も不正はなくても、その透明性を確保するために、フィキシングメンバー数社が、密室で限られたメンバーが価格を決めるという(ただしもちろんその値決めは談合ではなく、実際の顧客の売買注文に基づいて決められるので、公正な価格形成だと筆者は思うが。)ことが、LIBORと同じく「透明性」を欠いているとして、第三者であるサービスプロバイダー(ゴールドはInterContinental Exchange)のシステムにより値決めをする方法に移行され、100年の歴史に幕を閉じたのでした。シルバーやPGMも数社のメンバーによるフィキシングから、ゴールドと同じくサービスプロバイダーによるシステムへ移行しました。
そして今、今度はフィキシングに続いて、いわゆるザラ場のスポット取引である「ロコ・ロンドン・スポット取引」も新たなシステム取引に移行しようという動きになっています。「ロコ・ロンドン・スポット」は、マーケット・メーカーと呼ばれるメンバーを中心とした2社間のOTC取引であり、基本的には電話やロイターディーリングといった端末で行われています。もちろんこれは一対一の取引であり、基本的には当事者以外には公表されるものではありません。(当たり前ですが。)しかしこのOTCの取引が、マーケットの「透明性」を阻害しているとして、批判されています。少し金融規制が行き過ぎていると思いますが、そういう風に世の中は流れているようです。もはや数年前からOTCのマーケットメーカー間の直接取り引きは陰を潜め、現在はほとんどすべての昔ならば「インターバンク」と呼ばれた取引が、取引所取引に取って代わられていると感じます。顧客との取引のリスクヘッジは、昔であればディーラー間のロコ・ロンドン取引によって行われていたものが、今ではほとんどCMEで行われていると言っていいでしょう。(東京ではTocomもその選択肢になります。)アジアではもはやインターバンクのマーケットは存在しないと言えます。そうやってすべての取引が取引所に集中される状態になっており、OTCマーケットの中心地とも言えるロンドンでは危機感が募っているのでしょう。
LBMA(London Bullion Market Association)ではRFI(Request for Information)というマーケット参加者からの意見を募集し、その会員20社から17の反応があったということです。最初のステップとしてはやはりまずはコンピュータによる取引プラットフォームを作り、毎日の取引量を補足し、OTC取引の透明化を図ることがあげられています。これらの意見書はLBMAのマーケットメイキングメンバーを中心にしたメンバーで検討され、アーンスト&ヤング(EY)がコンサルとして参加しています。
現在のロコ・ロンドン取引は、5社のクリアリングバンクを通して取引当事者間によって決済がなされています。今これを見直して、取引所形式でプラットフォームに乗せて、ボリュームを公表、決済もクリアリングハウスにより集中決済をすることを計画しています。そのシステムの提案を、ICE(Intercontinental Exchange)、LME(London Metal Exchange)、CME(Chicago Mercantile Exchange)の三つの取引所、そしてEBS、ICAP、Autilla、LCH(London Clearing House)Clearnet、といったブローカーやシステムプロバイダーがしています。ちょうどゴールド、シルバーそしてPGMのフィキシングの新しいシステム導入の入札に参加した企業及び団体です。
Fixingは単純なセリ商いであるので、システム的には単純なものと推測できますが、いわゆる現在のマーケットメーキングをどういう形でシステムに落とし込むのかがよくわかりません。もしGlobexなど先物取引所や外国為替のシステムと同じような仕組みで取引をするのであれば、もはやマーケットメーカーの存在意義はなくなり、CMEがそうであるように、人々は自分の取引したいオーダーをだけをシステムに入れることになり、それによって果たして流動性が現在よりもよくなるのか疑問です。そしてシステムという性格上おそらくはCMEと直接つなぐAlgo(アルゴリズム)やHFT(high frequency trading)といった取引が主導権を握ることになり、それならば直接CMEで取引した方がいいという結果にならないでしょうか?結局他の「取引所」を作ることに他ならず、現在世界のスタンダードとなっているCMEに「Price finding」機能を集中させ(集中することになると思います)、そこからEFPでLoco Londonのスポット価格に巻きなおす方が効率的ということになってしまうのではないでしょうか?
何もかも昔から続いているものを否定するという風潮はどうも好きになりません。長年続いてきたということは、それ自体がなんらかの意味があるはずだから。欧米主導の規制の行き過ぎが本来あるべきマーケットの姿を悪い方に動かしているのではと思えてなりません。