南アランドとプラチナ
南アランドは2012年からその価値がほぼ半分になりました。このランド安はドル建てプラチナやPGMのバスケット価格(一緒に生産されるプラチナ、パラジウム、ロジウムの比率を考えた混合価格)の下げよりも大きな影響があります。
素直に考えると、ほとんどコストが南アランド建てであり、生産者の操業マージンは比較的ヘルシーなものであるはずです。しかしながら、それでは南アでのインフレコストを考えに入れていないことになります。もしランド建てのPGMバスケット価格を南アのCPI(消費者物価指数)で割り引いて考えると、その実態は大きく変わります。下のチャートはドル建てプラチナ、ランド建てのPGMバスケット価格、そしてCPIで割り引いたランド建てPGMバスケット価格です。
これを見るとランド建てのバスケット価格は、ドル建てのプラチナ価格よりもはるかに高いものになっていますが、インフレ分を加味するとドル建てとほぼ変わらないということになります。そして重要なのは、CPIはせいぜい年率4%から6.5%の間ですが、それでは現実のコストを非常に過小評価する数字になるということです。プラチナ鉱山産業ではその固定コストの40?45%がいわゆる人件費にあたり、賃金上げの交渉では一年8%から12%の上昇を前提にしているからです。
プラチナ鉱山産業のほとんどが今年半ばにかけて、今後3年の賃金交渉を始めるようです。2014年の前半にあったようなスケールでの労使交渉決裂によるストライキはないでしょう。交渉は困難でしょうが、こういう状況下、労使双方が「現実的」な合意を目指すものと考えます。まずおそらくありえないと思われますが、もしまたストライキ突入となったとしても、大手3社は2ヶ月くらいの生産ストップでも十分に顧客のニーズを満たすだけの在庫は用意していると思われます。いずれにしろ、最終的には労使の賃金交渉の結果はこれまでの結果を見る限り、南アのCPIを大きく上回るのが通例です。昨年10月のゴールド鉱山会社と労働組合との交渉では、基本賃金は10%から13%の上げ、新規雇用者は6%の上げということになり、賃金以外にもいろいろな追加メリットが約束されました。
鉱山コストの中で電気の占める割合は約5%と大きく、過去7年間に電気代は約20%も上昇しました。
インフレ率を勘案すると、南アのPGM鉱山産業は、ランド建ての価格でも世界金融危機の頃(2009年)と並ぶくらいの低い価格の中で、固定コストだけが上昇しているという環境にあるわけです。
このような苦しい状況にありながらも、今年2016年に入り、プラチナ相場は810ドルで底を打ち、2月半ばにして一時960ドルまで上昇しました。同時に南アランドも久しぶりに大きく反発しています。ランドの買戻しが一時的なものでないならば、プラチナの安値修正はしばらく続きそうです。