ゴールドマーケット:実需の低迷、インドの現状
「実需の低迷」
今年に入ってからNymexやETFといったいわゆる「西側」の投資需要は非常に堅調ですが、中東、インド、そしてアジアのマーケットからのいわゆる実需の現物需要はまったくもってその正反対に不調です。1月の旧正月前の在庫積み上げの買いを除けば、ゴールドの現物需要は弱く、2015年の同時期と比べても低迷しています。
「インドゴールドマーケットの現状」
2016・17年の国家予算の中での想定外のゴールドの扱いにより、インドのゴールドマーケットは混乱の真っ只中にあります。そもそもゴールド・ドーレ(低品位のゴールド)と地金にかかる関税には差がつけられていたのですが、この差を縮小するという予算が組まれており、小規模のゴールド精錬所、特に物品税軽減のない地域の業者にとってはこれは死活問題であり、業界の縮小が必然であろうと思われます。
ゴールド宝飾費に対する1%の物品税の再導入は、インド中の宝飾業者全体を、ある地方では、50日以上ものストライキに向かわせました。これによりゴールド輸入業者や卸売り業者の手元には大量のゴールドの在庫がだぶつくことになりました。その大部分は相場がもっと極端に安かった頃に買われたもので、それが今でもディスカウントで売られ続けています。小売店では年初からの22%ものゴールド価格上昇(プラス1%の物品税)により、安値で買いたい消費者は買いを手控え、予算がある消費者のでも当然買えなくなった人が多数いました。
また20万インドルピー(約32万円程度)を超える製品やサービス(宝飾品を含む)を買うときに、PANカード(Personal Account Number:マイナンバーのようなもの)の提示義務ができ、これもまた宝飾業界にとっては向かい風となっています。そして多くの宝飾業者にとって負担となるような、強制的な宝飾品への刻印が今年の第4四半期から義務づけられます。
2016年の1?4月のインドのゴールド輸入は、昨年の302トンから160トンへほぼ半減になりました。この数字は記録的に少なかった2014年の170トンをも下回るものです。(80/20ルールが導入された時でした。)
また同時にインドの蔵相は、まだまだゴールド・マネタイゼーションとゴールド・ボンドプログラムを重要視しています。しかし、現実的にはこれまで信託銀行やその他金融機関および個人からの参加はほとんどなく(GMS:Gold Monetisation schemeに集まったゴールドはわずか3トン!)、インドのゴールド市場全体を考えると全く影響を与えるものにはなっていません。
しかしながらゴールドボンドは、2月の政府予算の中では、キャピタルゲイン課税を免除されており、これはゴールドボンドが見直されるきっかけになる可能性もあります。また6月1日からは、これまで申告していなかったどんな個人財産(ゴールドを含む)をも無税で申告できる救済期間となり、ある程度のゴールドがGMSに預け入れられる可能性があります。またGMSの制度自体も、投資の見返りを現金だけでなくゴールドで受け取れると改善されたことも長期的には追い風となる可能性があります。今後数ヶ月で、さらなる制度的な改善がなされる予定であり、その中には品位鑑定ができる指定精錬所の数を増やすということも含まれています。
地方の人々の収入に関しても今年は良い予想が出ています。インドの気象予報機関によると今年のモンスーンは平均以上の雨が期待できるとしています。過去2年間の平均以下の降雨によって、地方によっては旱魃の後、現在の高い気温の状況では、この雨はまさに恵みの雨となり農作物収入の改善となる可能性があります。これがより多くのゴールドを買う意欲に繋がるかもしれません。(もしそうなったとしてもこれは年後半の4ヶ月まで待つ必要がありますが。)インドのゴールド需要の本格的回復となるのは年後半になりそうです。