2016年前半のマーケットビュー
今年もはや半年が過ぎました。ここまでの貴金属マーケットを振り返ってみましょう。
「年初来騰落率」
シルバーが驚異的な上げです。7月11日時点で、なんと48.48%とほぼ50%の上昇を記録しています。これは全米の先物市場上場商品すべての中でも圧倒的1位のパフォーマンスです。ゴールドが28.88%で3位、プラチナは23.56%で7位、パラジウムは10.3%で14位です。貴金属は総じて高いパフォーマンス、つまり年初から大きく上昇しているということになります。その他で上昇したものの中には日本円、米国債30年物などがあります。逆に年初から大きく下げている中で目立つのは日経平均、英ポンドそして欧州の株式指数でしょうか。まさに今年の「投資家の不安相場」を表していると言えるのではないでしょうか。
(ゴールド)
2015年の年末から2016年の年始で、ゴールドは明らかにターニングポイントを迎えました。12月後半のFRBによる金利上げが、それを材料にゴールドを売ってきた向きのショートカバーに走らせました。まさにSell the rumor, buy the fact.実際に金利が上がったことにより、この材料でのゴールドの売りはとりあえず終わりとなり、ゴールドは買われました。そして、偶然か必然か、年初から世界を不安にさせる出来事が続きました。サウジアラビアとイランの断交、上海株の暴落に端を発する世界の株式市場の乱高下、北朝鮮の水爆実験などから、6月には世界の予想に反して英国が国民投票でEU離脱を決めるなど、世界経済の先行きに対する不安は増すばかりであり、それに呼応して投資家はどんどんゴールドへの投資を増やし、ゴールドは年初の1060ドルから1367ドルまで300ドル以上もの上昇になっています。Gold ETFは500トン近くその残高を増やし、Nymexの投資家ロングポジションは史上最大を更新しています。まさに投資家の買いがゴールドを上げており、英国のEU離脱へのこれからの長いプロセスや秋に控えた米国の大統領選挙など、まだまだゴールドが買われる場面があると思います。おそらく1400ドル突破は必至、来年前半には1500ドルがあってもおかしくないと感じます。
(シルバー)
(シルバーの需要の地域変化)
シルバーは節目と見られていた18ドルを6月末に超えてからは、テクニカルな買いが発動され一挙に一時21ドルまで大きく上昇しました。この動きによりシルバーは年初からの上昇率トップとなりました。ちなみに今年の年初の価格は13.90ドル。この原稿を書いている現在20.56ドルであり、まさに率にしてほぼ50%も上昇したことになります。ここに至るまでシルバーはいつもゴールドの後塵を拝してきましたが、6月に入ってからはシルバーがゴールドをリードする相場の動きになってきています。2015年には特にインドと米国においての個人投資家の地金・コイン買いなどが目立っています。コインと地金への投資は前年から24%増加。そして宝飾需要は7000トン以上、太陽光発電パネルの需要もまた23%の伸びを記録しています。このしっかりした実需がそのベースにはありましたが、金銀比価でゴールドに対して80対1という歴史上稀に見る「シルバー安」状態に置かれていました。それが18ドルを超えたことにより、投資家の買いが盛り上がり、ようやく一挙に価格上昇の加速、ゴールドに対する割安感の修正の動きとなりました。現在では金銀比価は66対1にまで縮小しており、とりあえずのシルバー割安感は是正されました。今後のシルバーの伸びは、20ドルという節目のレベルを維持できるかどうかにかかっていると思われますが、ゴールドが上昇傾向にある以上、やはりシルバーもここからさらなる上値を追うと考えた方がいいでしょう。
(金銀比価の動き)
(PGM)
■プラチナ
■パラジウム
プラチナ・パラジウムも、年初からは投資資金のゴールド一極集中の影に隠れたような相場でしたが、ゴールドのロングポジションが膨らみ、5月に一度利食いで下げると(それは6月頭の雇用統計の悪化でまた一瞬にして買われて上昇になったが)、PGMにも物色の資金が入るようになりました。シルバーと同様に、実需ということでは、実は背景は悪くありません。米国では今年の前半の半年は6年連続の自動車売り上げの成長の後の最高の半年となっています。1月から6月の間の販売は865万台と前年同期の1.5%増加になっています。世界で一番自動車が売れている中国では、1?5月で1070万台もの車が売れており、これはなんと前年の7%増になっています。またインドでも小型車とモーターバイクの売り上げが好調です。調査会社であるCPMの予想によると今年のパラジウムの需要は昨年より3%増えて、過去最高になるとしています。その根拠として、より厳しい排ガス規制と、ガソリン価格の下落から、米国での大型車の売り上げが伸びていることをあげています。(大型車の方がより多くのプラチナ・パラジウムを含んだ触媒を使わなければならないから)
PGMはゴールドの影に目立ちませんでしたが、1月に底値を打ってから、大きく上昇しています。Metals Focusのレポート 「Platinum& Palladium Focus 2016」にも、昨年までの18ヶ月続いたベアサイクル(弱気相場)は終わりを告げ、昨年、欧州問題とフォルクスワーゲンの不正により冷え込んだ投資家心理も持ち直し、ファンダメンタルは大きく改善しています。ちょうど南アの賃金交渉も始まり、今後はPGMも大きく上昇する可能性を秘めています。
今年は前半もそうであったように、後半も貴金属は強い相場になるのではないでしょうか